弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年10月15日

10年後、あなたは病気になると、家を失う

社会

著者 津田 光夫・馬場 淳 ほか、 出版 日本経済新聞出版社

 いま、日本は、病気にかかるリスクの高い人を、国民健康保険という一つの保険に集めている。当然、保険料は高くなり、払いたくても払えない人たちを増やすことにつながる。
 国保の保険料(保険税)の滞納が1年以上も続くと悪質滞納者とみなされ、保険証が取り上げられて、代わりに資格証明書が発行される。資格証明書では、窓口でいったん全額を支払わなければいけない。あとでその7割が返還されるはずだが、実際には滞納分に充当されるので、お金は戻ってこない。つまり、資格があるというだけで、事実上は無保険を意味している。このような無保険世帯が34万世帯もある。このように、国民皆保険は崩壊しつつある。
 民医連の調査によると、国保の保険証が取り上げられて、医者にかかれないうちに亡くなった人が、05~06年に29人、07年に31人、08年も31人いる。
 そして、医療機関に多額の未収金が発生している。3270病院の累積未収金は、1年間で219億円、3年間で426億円になっている。
 国保財政が赤字になったのは、国庫からの拠出金が減少しているため。
 そもそも、社会保障制度にはすべての国民に対して、負担の如何にかかわらず国が面倒をみるという基本概念がある。
 生活習慣病という呼び方には、自己責任と共通する意味がある。本人の生活習慣が悪いために慢性疾患になった、という意味が込められている。
 うへーっ、ちっとも知りませんでしたよ……。
 医療・介護・年金の分野で、国は自らの責任を後景に追いやり、代わって国民の自助と共助を強調している。それは、戦前への逆戻りである。そうなんですね……。
 アメリカの民間医療保険は、生命保険会社や損害保険会社が運営する営利目的の保険である。アメリカのように公的医療保険が不十分だと、企業負担が増大する。日本の医療・福祉制度は絶対にアメリカのマネをしてはいけない。著者は、このように強調しています。やはり、アメリカではなく、イギリスを含めたヨーロッパ型を日本は目ざすべきだと痛感させられました。
 日経新聞を私も毎日読んでいますが、そこから出ている本だとは思えない、とてもまともで、道理のある本です。
(2009年4月刊。1700円+税)

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