弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年10月10日

楠の実が熟すまで

日本史(江戸)

著者 諸田 玲子、 出版 角川書店

 うまいもんですね。女隠密の大活躍。手に汗握る場面の連続です。次々に周囲の人物が殺されていく中で、公家の乱脈財政を暴くため密命を受けて京に潜入し、なんと公家の奥方様としてお輿入れするのです。いやはや、よくぞこんな筋立てを考えついたものですね。その発想力は恐れ入ります。そして読ませます。
 禁裏(きんり)の台所を預かるのが口向役人(くちむけやくにん)である。
 武家伝奏(ぶけでんそう)とは、幕府と朝廷との間を取り持つ重い御役。
 口向は禁裏の賄(まかな)いをつとめる役人の総称である。御取次衆、御賄頭(おまかないがしら)、御勘使(おかんつかい)、御買物使、御膳番(ごぜんばん)、御賄方、御修理職(おすりしき)、吟味方、御板元方(おいたもとかた)、御鍵番(おかぎばん)と役職は多岐にわたる。御取次衆は、全体のまとめ役で、幕府から派遣された御付武家衆に帳簿を提出する役目である。江戸時代のさまざまな役目が紹介されています。
 女隠密の正体がいつばれるのか、ハラハラドキドキしながら読み進めていきました。そして、不正の対象である公家と情が通じ合うようになり、その子を本気で愛しく思うようになってしまうのです。でも、それでは隠密の使命は果たせません。この矛盾をどうするか…。悩ましい展開です。
 裁判所の行き帰り、そして法律相談の合間にカバンから本を取り出して、読みふけりました。私も、こんな人物描写にすぐれた小説を一度は書いてみたいと考えています。

(2009年7月刊。1600円+税)

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