弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年9月30日

金融システムを考える

社会

著者 大森 泰人、 出版 金融財政事情研究会

 民主党はしきりに脱官僚をとなえていますが、私はなんだか素直には信じられません。胡散臭いものを感じてしまいます。前の自民党も、何かというと悪政は官僚のせいにしていましたが、同じことになるのではないでしょうか。本当の悪は隠しておいて、国民の目に見えやすい官僚を悪人に仕立て上げている。そんな気がしてなりません。
 実は、私も高校生の頃は官僚志向でした。大学に入って、川崎でセツルメント活動として若者サークルに入って同年○○の労働者と遊んだり話したりしているうちに、官僚になることを考え直したわけです。でも、同じセツルメント活動をしていた仲間で官僚になってからも「変節」「転向」などしなかった人が何人もいます。ですから、官僚が悪だというのは、単純な誤った、ためにする見解・考え方だと私は思うのです。だって、官僚システムなしに国家が動くわけはないのですから。天下り禁止とか、具体的なことについては私も必要だと考えています。
 年収2億円の取締役を何十人もかかえている大企業の経営者が、悪いのは官僚なんだと言うとき、ええっ、本当に悪いのはあんたでしょ。そう言ってやりたくなります。そして、日本にもある軍事産業、アメリカ軍と自衛隊に結びついて利権を吸い続けている防衛族という政治家たちではないでしょうか。おっと、この本の紹介に入る前に長話をしてしまいました。今の官僚にも、こんな気骨のある人がいたのですね。たいしたものです。すごい自信家のようですが、その自信は一体どこから来ているのか、教えてほしいものです。うらやましい限りです。
 著者は、貸金業規制法を改正して貸金業法に変わったときの立役者の一人です。貸金業法の完全施行の期限が目前に迫っている今日、貸金業界は最後の巻き返しに必死になっています。それを許さない取り組みが今求められています。
 現在のアメリカという国家に対する著者の認識は次のようなものです。私も、まったく異論がありません。
無辜の市民がテロリズムの犠牲になったのを契機に、周囲の反対を押し切って力に訴え、無辜の市民を犠牲にし続けているうちに、どこかこの国がおかしくなったように感じる。社会保障制度や税制においても、現在のアメリカの国内政策でもっとも欠けているのが、貧しい者への視点であり、格差是正につとめる代わりに、宗教的蒙昧や盲目的愛国心を鼓舞しているようだ。
 そして、著者はカウンセリング体制の充実にも目配りしています。この点も、私が意を得たりという気がしました。
 これまで、多重債務問題に取り組んで成果をあげてきた組織や自治体を拝見すると、例外なくそこには、強い問題意識と使命感を持ち、借り手の悩み、苦しみに真摯に耳を傾け、人生をやり直すべく強烈にインスパイアするカリスマっぽい人がいるのである。
 借金とは私人間の問題であるにとどまらず、地域住民の貧しさを背景とする構造的な問題なのだという認識が深まってきた。貧しい人たちに生活保護を提供するのか自治体の仕事であるなら、貧しい人たちが多重債務に苦しむのを救うのか自治体の仕事でないはずがあろうか。
 不安が鬱積する社会においては、身分の安定した公務員への風当たりが強まるのは避けられない。
 この本を読んで、キャリア官僚が世の中の現実を知るために、ブログをよく読んでいることを知って驚きました。パブ・コメ(パブリック・コメント)なるものがありますが、世の中にあまたあるブログを歴訪して世間の動きを知っているというのです。
 ここには詳しく紹介しませんが、「大森十戒」と呼ばれるものも載っています。すごい内容です。
 行政官の仕事は結果がすべてである。結果とは、国民への貢献である。国民に貢献しないすべての努力は無駄である。
 あらゆる固定観念や従来のしきたりにとらわれることなく、無駄と偽善としたり顔を憎み、しなやかに柔軟に考え、行動する必要がある。
 国民のためではなく、上司のためと考えた途端、膨大な無駄と精神の退廃が始まる。上司とは、部下の仕事に国民にとっての付加価値を加える能力を有する者をいう。この意味での上司でない者は、意志決定プロセスから事実上除外し、階層をフラット化する必要がある。
 働くとは、傍を楽にすることである。はたを楽にしているつもりで消耗させているだけの人間には、通例、自覚症状がない。このような場合には、階層をこえて直訴し是正させることが部下として正義人倫にかなう行動である。
 ええーっ、ここまで、こんなことをキャリア官僚が言っていいのかしらん、腰を抜かすほど驚いてしまった私でした。
 市場とは、自分だけは得したい欲張りの集まりであり、そこでの不正や弊害は「起こってはならないこと」ではなく「起こったら摘発されるべきこと」である。
 よくぞ言ってくれました。そのとおりです。キンザイの伊藤洋悟さんから贈呈を受け読みました。期待した以上に大変面白い本でした。ありがとうございます。
 
(2008年3月刊。2800円+税)

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