弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年9月26日

同期

司法(警察)

著者 今野 敏、 出版 講談社

 同期というのは、有り難いものです。一緒に弁護士になり、2年間の司法研修所生活で苦楽をともにした仲間は、10年経ち、20年経って、30年経っても、会えば、やあやあやあと、顔中の笑顔が湧き出てきます。そんな弁護士もロースクール(法科大学院)になると、かなり様変わりしてしまいました。なにしろ人数が違います。私たちの頃は50人のクラスが10組あって、全部で500人足らず。今や2000人というのですから、同期といっても顔見知りである方が少ないでしょうね。せいぜい実務研修地が同じでないと相互交流も一体感もないと思います。
 この本は、警察官にも強烈な同期意識があることを前提としています。
 私立大学を卒業して警察官になり、初任地研修で同期だった2人のその後をめぐって話は展開していきます。一人は犯罪捜査の第一線にある刑事部に所属した。もう一人は本庁公安部に引っ張られていった。そして、刑事になった主人公がある日、内偵中に公安部に配属された同期生から内定対象者に襲われて危ないところを危機一髪、助けられるのです。
 日本の情報機関の中で一番の力を持っているのは国の組織ではなく、警視庁の公安部だと言われている。つまり、日本のCIAは、公安調査庁でも内閣情報調査室でもなく、警視庁公安部なのだ。警察の中にゼロという組織がある。ゼロは、かつてサクラやチヨダと呼ばれたことがある。警察庁警備局警備企画課にある情報分析室のことだ。日本中の公安情報がここに集約される。
 プロは口を割らないと一般的には考えられているが、それは逆だ。取り調べで黙秘や否認を続けるのは政治的な信念や宗教的な信念を持つ犯罪者だけだ。ヤクザなどは、一番口を割りやすい。
 警察がさまざまな思惑のもとで動いていることを実感させる小説でした。
 この先、どういう展開になるのか期待しながら頁をめくる手がもどかしいほどでした。良くできています。
 これ以上詳しいことは紹介できませんので、最後にオビの言葉です。
 刑事、公安、組対…。それぞれの思惑が交錯する。大きな事案を追いつつ、願いは、ただ同期を救うことだけ。
(2009年7月刊。1600円+税)

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