弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年7月 9日

宇宙開発戦争

アメリカ

著者 ヘレン・カルディコット、 出版 作品社

 宇宙を武装すると、世界はより安全になるか?宇宙に兵器を配備する必要があるか?その答えは、宇宙に兵器を配備すれば、世界は今よりはるかに危険になる。宇宙兵器を持つと、さらに危険な状態に陥ってしまう、ということである。なぜなら、宇宙を武装すれば、間違いなく宇宙での軍拡競争が始まり、恐ろしい戦争が勃発しかねない。こんな危険なスターウォーズを防ぐには、今すぐに声をあげなければならない。
 ミサイル防衛というのは、実効性のあるシステムは不可能である。ところが、はっきりしていることは、相互抑制システムを維持するコストだけは、どんどんつり上がっているということ。アメリカは、およそ1500億ドルを投入して、ミサイル防衛システムを開発してきたが、実のところ、大陸間弾道ミサイルに対しては、まったく無力だった。おとりの一群に囲まれた核弾頭を打ち落とすことはできない。つまり、実戦で確実に考えられる状況には対応できないのである。
 アメリカがミサイル防衛計画にかけている年間費用は、104億ドルから2倍になりかねず、2007年度で最大の単独計画になっている。この費用は、2013年までに190億ドル、2006年度から2024年までを合わせると、合計2470億ドルにまで膨れ上がりかねない。
 ペンタゴンが曖昧にしておきたがっているのは、ミサイル防衛システムの主な能力が完全に機能しても、ほとんど効果はなさそうだということ。日本政府も、それを知っておきながら、計画をすすめているのです。
 北朝鮮のミサイル実験を問題にしているアメリカは、インドが2006年7月に行ったミサイル実験については一切抗議しなかった。うひゃあ、これっておかしいですよね。
 通信衛星にかかる費用は、海底ケーブルよりもかなり安く、海底ケーブルが1億7500万ドルかかるのに、8000万ドルですむ。
 GPS衛星は、1978年に初めて打ち上げられたが、全面的にシステムが稼働したのは1995年のこと。GPSは、現在、28基の衛星を利用していて、それぞれの衛星は12時間ごとに地球を周回している。GPSの年間維持費用は、4億ドルである。
 アメリカは今、4000億ドルの年間赤字と膨大な貿易不均衡を抱え、貧困層などへの福祉の切り捨てをすすめている。そのときに、こんなとてつもない費用を実働性の保障されていないミサイル防衛計画に投資するのは、国民の価値基準を根本から明らかにするだろう。
地上と違って平和と思っていた宇宙が、実は熾烈な開発競争のターゲットになっていることを知り、驚きました。
 
(2009年4月刊。2400円+税)

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