弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年7月 1日

強者の論理に負けないで

司法

著者 辻 公雄、 出版 せせらぎ出版

 大阪の名物弁護士の著作です。私より先輩の弁護士ではありますが、まだそれほど高齢でもないのに、早くも「弁護士としての最終楽章もかなり終りに近づいている」として「人生の最後に感じたことを綴ってみた」とあります。いえ、いえ、それは早すぎます。もっともっと元気にご活躍ください。
 著者の辻弁護士は、私の知る限り3つの分野で大変有名です。
第一は、オンブズマン活動です。私自身も及ばずながら地元のオンブズマン活動に関わり、この30年来、一貫して住民訴訟に関わってきました(今も2件の住民訴訟を追行中です)。辻弁護士は、大阪でオンブズマン活動を先進的にすすめてきましたが、なんと、市長(どうやら太平光代助役の推薦のようです。太平助役とは、『だからあなたも生き抜いて』の著者として有名な、元ヤクザの妻だった弁護士です)から頼まれて、大阪市政の調査委員に就任し、引き続きコンプライアンス委員会の委員長になったというのです。すごいですね。
 公益通報が年に700件近く寄せられているそうです。内部から600件、外部から100件という割合です。それを丹念に聞き取り、市の行政に反映させているというのです。そういえば、私の敬愛する弁護士が、この4月から札幌市のオンブズマンになって、週3回も市役所に詰めて、市民などからの苦情を聴いているということです。これって大変なことですよね。残念なことに、福岡では、そんな活動が進められているという話は聞かれません。
 オンブズマンについて、改革派知事として有名だった橋本大二郎氏(高知県)は、敵だが、必要な敵だ、と述べた。浅野史郎氏(宮城県)は、うるさい敵、必要な敵、素敵な仲間と評した。ホント、そのとおりです。
 その二は、弁護士費用を裁判に敗訴したものに一律に負担させようという案をつぶした立役者だということです。日本の訴訟費用はアメリカなどに比べると、大変高くなっています。これは、明治の初めごろ、あまりに裁判が多いので、その抑圧策として貼用印紙制度が導入されたことの名残です。アメリカからの外圧によって、高額訴訟の方はかなり低額になりました。それでも、裁判に負けたら相手方の訴訟費用まで負担させられるということになったら、今よりさらに裁判を利用する人が減ってしまうでしょう。日弁連は全力で反対運動を展開し、結局、つぶしてしまいました。その運動の中心メンバーが辻弁護士でした。お疲れ様です。
 その三は、憲法訴訟、たとえばイラク派遣差止訴訟などでの活躍です。大阪では勝訴できませんでしたが、あの名古屋高裁のイラクへの自衛隊派遣は違憲だとする画期的な判決を得る原動力になりました。
 このように、いくつもの分野で素晴らしい活動をしてきた辻弁護士に対して、私は大いに敬意を表します。ただし、辻弁護士の司法改革への評価には、にわかに賛同しがたい異論があります。ちょっと、それはないでしょう、という感じです。
 司法改革、とくに人数問題を中心になって進めたのは、左翼の人の一部と、これに同調した企業派の弁護士だった。
 人数が増えても今までどおり正義感のある弁護士が増えていく考えたことに誤りがある。弁護士の社会正義没頭論は、一種の超人思想である。
 ここらあたりになると、私にはとても理解できず、賛同しがたいものです。まだまだ多くの国民にとって、弁護士は足りないと考えるべきではないかと私は今も本気で考えています。
 
(2009年3月刊。2000円+税)

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