弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年5月 5日

白雲の彼方へ

日本史(江戸)

著者 山上 藤吾、 出版 光文社
 幕末の掛川城(今の静岡県)における尊王派と攘夷派との抗争を背景とした時代小説です。アメリカのペリーが来て、ロシアのプチャーチンがやって来たころ、1854年(嘉永7年)のことです。
 ロシアの地に渡った日本人、橘耕斎は、和露辞書を発刊した(1857年、安政4年)。ロシアに着く前から、伊豆の戸田でロシア語を自由に話していたようです。大したものです。
 耕斎は、明治7年(1874年)に日本に帰国し、明治18年(1885年)に亡くなりました。
 私は、今から40年も前の大学1年生のとき、伊豆の戸田(とだ、ではなく、へだ、と呼びます)に行きました。なぜか、大学の寮がそこにあったのです。海岸に無数の夜光虫がいました。夜、海岸を裸足で歩くと、足跡が青白く光るのです。不気味というより、幻想的な光景でした。
 その戸田で、難破したロシアの水兵たちが本国へ帰るため足止めをくい、日本の船大工が見よう見まねで外国船をつくりあげていったのです。橘耕斎は、そこに派遣されて、ロシア語を習得しました。
 読み物に仕立て上げた著者の筆力に感心・感嘆しました。これが新人の作品とは恐れ入りました、という作家の評が載っていますが、私もまったく同感です。まさに、後世、恐るべしです。こんな本に出会うと、小説を読む楽しみがあります。でも、私は、こんな本を書きたいのです。読む人の魂を揺さぶってやまないような本をぜひ書いてみたいと思っています。
 
(2009年2月刊。1500円+税)

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