弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年4月21日

プレカリアートの憂鬱

社会

著者 雨宮 処凛、 出版 講談社

 今の日本で「安心して働けている人」は上部のほんのひと握りで、ほとんどの人は正規雇用でも非正規雇用でも、浅瀬でおぼれるような不安定な日々を強いられている。そんな人々すべてがプレカリアートなのだ。
 生活保護に対するヒステリックなバッシングは、激しくなっているように思える。自己責任という言葉が浸透してから、この国の人々は明らかに残酷になっているのではないか。
 中東で自爆攻撃して死んだ人間より、日本で自殺した人の方がはるかに多い。そうです。年に3万人以上の人が自死を選んでいます。飛び込み自殺のため、東京の中央線はたびたびダイヤが乱れるので有名ですが、このところ西鉄でも相次いでいて不気味です。
 もちろん、自死を選ぶ理由にはさまざまなものがあるでしょうが、その少なくない部分を経済苦、つまり借金を抱えての悩み、が占めています。解決できない借金はない、と、私は声を大にして叫びたい気持ちです。
 大阪のあるシングルマザーは、夜の仕事に出かける前、小さな子どもに睡眠薬を飲ませるというのです。子どもが夜中に目が覚めて、母親を探し求めて泣いたら可哀想だという理由からです。
 この話を聞いて、なんてひどい母親だと責めるのではなく、なんてひどい冷たい社会なんだと考え直してほしいと若者は訴えています。なるほど、そうですよね。私の依頼者にも、昼も夜も仕事しているシングルマザーがいました。大変なんですよね。幼い子供をかかえて育てあげるというのは。少子化対策の充実というのなら、こんなシングルマザー(ファーザーも)への補助金の充実こそ必要ではないでしょうか。
 国際人権規約を締結した国のうちで、「高等教育の無償化」が進んでいないのは、日本とルワンダとマダガスカルだけ。日本は、国連から高等教育を無償にするよう迫られている。
 ええーっ、そ、そうなんですか。ちっとも知りませんでした。一刻も早く実現するべきですよ。人材育成に国はもっとお金をつぎこむべきです。
 司法修習生に対して給与を支給しなくなることになっていますが、本当に日本ってケチくさい国です。大きな橋や高速道路をつくる前に、人材育成・教育にこそお金をもっとつかうべきです。
この飽食時代の現代日本で餓死が起きるなんて信じがたいことだが、この11年で、なんと867人もの餓死者が出ている。
 むむむ、これって、許し難いことです。消費税率を上げることばかり考えている政府ですが、こんな現実を変えることこそ先決でしょう。
 格差をなくせ、というのではなく、格差の底辺にいる膨大な貧困層の生存権を問題にしている。
 まるで戦前のプロレタリア小説の表紙を思わせる表紙のついた本ですが、中身はまさに現代日本の貧困問題を真正面からとらえた真面目な本です。知らなかった日本の現実を大いに学ばされる本でもありました。
 
(2009年2月刊。1500円+税)

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