弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年4月14日

失墜するアメリカ経済

アメリカ

著者 ロバート・ポーリン、 出版 日本経済評論社

 著者は、1950年生まれ、マサチューセッツ大学アマースト校の経済学教授です。
 人間らしい生活のできる賃金、生活賃金を制定すべきだと提言しています。これは、連邦最低賃金をこえる適正な賃金です。既に、アメリカの地方自治体で制定され始めています(2002年末までに90の地方自治体)。私も、この提言に大賛成です。
 政府の規制あるいは実務的な労働組合が、市場で進行している事態に対抗できなければ、労働者は実際に交渉力を弱体化させ生活条件を低落させ続けることになる。
 そうなんです。だからこそ、労働三権が大切なのです。
 ところが現実には、クリントンが大統領であったとき、労働組合員は長期的減少が続いた。レーガン大統領のとき(1988年)に16.8%だった組織率が、2001年1月には3%も減って、13.5%にすぎなかった。
 アメリカの年間軍事予算は3000億ドルのまま。軍事支出額は教育予算の5.5倍のままである。そして、食糧クーポン券その他の扶助費は、1992年の372億ドルから、2000年の288億ドルへと85億ドルも減らされた。
 労働者は適正な最低水準を超える賃金を実現するために、すなわち単に賃金等級表の最低水準の近傍に引き上げるだけでなく、もっと広く賃金・付加給付を増加させ、職場条件を改善させるために団結する権利を有している。そのために必要なことは、労働者が団結し、労働組合を結成する法的権利の強化である。
 労働者が自らの望みに従って団結する基本的権利を、雇用主と政府取締官が尊重しなければ、平等主義的政策過程を推進することはできない。この基本的権利を欠いた平等主義的政策という概念は、語義矛盾である。
 労働者の団結権を擁護することは、もっと大きな恩恵をもたらす。というのは、労働者が労働協約を通じて適正な賃金を受け取れば、自らの支出能力の向上によってアメリカ経済の総需要を刺激できる。
2007年にアメリカ政府は、イラク戦争に1380億ドルを使った。1日あたり3億7000万ドルになる。これは、一国を破壊し、アルカイダにきわめて効果的な徴兵手段を提供するものだった。
 実効性のある進歩的課題を推進する第一歩は、戦争を終結させ、1380億ドルを雇用・保健・医療・教育・環境・貧困削減に費やすことである。それに加えて、20万ドル超を稼ぐすべての人びとへのブッシュ減税を撤廃すれば、アメリカ財務省の歳入が600億ドルも増えることになる。つまり、イラクと富裕層減税をやめると、それだけで2000億ドルが生み出され、さらに進歩的な経済課題の資金に振り向けることができる。
 アメリカの労働人口は1億5000万人。うち680万人が失業中である。前記の2000億ドルの資金移転が行われると、失業率は4.5%にまで下げられる。
 アメリカ経済をどう見たら良いのか、現状を克服する処方箋はどうあるべきか、大変示唆に富む指摘がなされていました。
 
(2009年2月刊。3400円+税)

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