弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年3月28日

空白の日記

世界(ヨーロッパ)

著者 ケーテ・レヒアイス、 出版 福音館日曜日文庫

 舞台はオーストリアの小さな村です。ナチスの影が平和な村に忍び寄ってきます。あのヒトラーもオーストリアの生まれでした。ですから、ヒトラーを賛美する村人もいます。もちろんヒトラーを軽蔑する人もいました。お城に住んでいるユダヤ人の伯爵夫妻は、ついに村を出ていかなければならなくなります。
 1938年3月、オーストリアにヒトラーが入ってきました。人々は、反対したくても反対できなくなっていました。ドイツへ併合されることを決めた国民投票でも、監視されるなか反対投票することはできなかったのです。人々はヒトラーの旗を家の前に立ててナチスを歓迎せざるをえません。学校の教室にもヒトラーの写真が掲げられるようになりました。
 ナチスが支配するようになると、浮浪者は借り集められ、「病死」させられました。それに異を唱えた司祭も逮捕されます。
 そして、村の若者たちが次々にナチスの軍隊にひっぱられていきます。やがて若者たちの戦死公報が村に届きます。そのうちドイツ本土も連合軍によって空襲されるようになりました。ドイツの敗戦も間近になったのですが、村人たちは今度は連合軍の攻撃に悩まされるのです。
 12歳の少女の目から見た第2次大戦前と戦中・戦後の日常生活が淡々と語られます。
 子どもたちを含めて、当時の多くの人々がナチスによる嘘で固めたいつわりの理想に強く惹きつけられていたいた日常生活の様子が細かく描写されています。
 「空白の日記」とは、あのころの高揚感に燃えた日々のことは、そのあとにきた失望と悔悟の思いから、その反動として記憶から消し去っていたことを意味しています。
 日本人にも、戦前・戦中のことを真正面から向き合いたくない人が多いように思えます。いかがでしょうか。
 
(1997年5月刊。1700円+税)

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