弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年3月26日

医者を殺すな

社会

著者 塚田 真紀子、 出版 日本評論社

 この本を読むと、医師の仕事のすさまじさがよく伝わってきます。高校生のころ、医師になることを少しは真面目に考えた私ですが、医師にならず弁護士になって本当に良かったと思ったことでした。だって、何日間も徹夜続きなんて厭じゃないですか。そんなことしたら病気になるにきまってます。医者になってわずか2か月余り、20代の半ばで死ぬなんて、信じられないハードスケジュールです。
 毎日15時間以上も働き、法定労働時間を月に200時間はオーバーしていた。その対価として得たのは、月6万円の奨学金と「日夜直手当」のみ。うへーっ、ひどいものです。
 医師も聖職者というより、その前に労働者ですよね。自明のことだと私は思います。ある勤務医は、毎晩、午前0時までに帰るのが目標だったと語る。土日も出勤した。うひょひょ、これでは身体がもちませんね。
 一審判決は、1億3500万円の賠償を大学病院に命じました。そして、そのあとで、労働基準監督署は労災認定したのです。発症1か月前に100時間をこえ残業したときは、業務と発症の関連性は強いと認定する新しい基準が適用されたのでした。でも、これって順番が逆ですよね。労働者を守るのが労基署の使命でしょ。
 研修医はものすごいストレスにさらされる。これまで学生として責任なく自分のペースで生活してきた人が、いきなり医師として大きなストレスにさらされる。そして、研修医の労働時間はあまりに長く、睡眠・食事・家事など、人間としての生活を営むに必要な時間が足りない。自分の能力以上の役割を期待されるなど、医師としての責任が重い。さまざまな患者と家族を相手にしなければならないし、医療スタッフの中では研修医が一番弱い立場にある。だから、うつになる研修医が多い。
勤務医が過重労働をせざるをえない理由は4つある。第1に、医師の仕事量や労働密度が増えたこと。第2に、深夜の受診数が増えたこと。第3に、勤務医の年齢構成の変化。第4に、長時間働くのは当たり前という医師の意識。
 あまりにも大変なため、たとえば20代の外科医が激減しているそうです。それは本当に困ったことです。医師も大切にしないといけませんよね。なんだか、悪循環に陥っているなと感じました。

(2009年2月刊。1800円+税)

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