弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年3月21日

反乱する管理職

社会

著者 高杉 良、出版 講談社
 経済小説を得意とする著者の本は、いつ読んでもぐいぐい引き込まれてしまいます。
 私は一度も企業人になったことがありませんが、企業内の派閥抗争の激しさ、宮仕えの大変さはなんとなく感じます。それは弁護士会のなかにいても感じることがあるからです。
 有力な生命保険会社が倒産の危機に直面した。更生特例法の申請をし、更生管財人として若手の有力な弁護士が選任され、同時に事業管財人も選任された。そこへ、外資が誘いの手を打ってくる。また、倒産会社の有力資産に政治家が介入し、弁護士管財人は、政治家の意向を受け入れて処理しようと動く。
 生命保険会社内部における、若手社員たちの動きが、この本のメインです。上司からにらまれても思い切ったことをズケズケと言い張る主人公たちの存在は頼もしい限りです。でも、現実には、こんなスーパーマンみたいな若手社員っているのでしょうか……。
 そして、実力社長になったあと、会長として相変わらず君臨し続けている人物がいます。この実力会長が会社の発展を阻害している最大のガン。しかし、本人はそのことに一向に自覚がない。誰がいったい猫の首に鈴をつけに行くか、いつもオドオドビクビクして決まらないのです。そのうち、さらに事態は悪化します。さあ、どうする?
 この本では、弁護士から成る更生管財人と倒産会社に残って再起に協力している社員たちとの軋轢が記述されています。たしかに、こんなことってありうるんだろうなあ、と思いました。
 たとえば、管財人側は再建のためには人員整理(人減らし)が必要だと言って強引に押しつけます。しかし、こんなときには有能な社員こそ真っ先にあきらめていくものです。あとに残った、とくに有能ではない社員たちのやる気をどうやって引き出すかが再建のポイントになるのです。
 それにしても、ハゲタカ・ファンドと言われるほどの外資系の強大な力とえげつなさには改めて感じ入りました。日本の企業も、働く人を大切にしたら、もっと力が出せると思いますが、今はキャノンの御手洗会長のように、目先の利益しか考えない経営者が多すぎます。
(2009年1月刊。1700円+税)

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