弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年2月12日

資本主義はなぜ自壊したのか

社会

著者 中谷 巌、 出版 集英社 インターナショナル

 オビに、改造改革の急先鋒であった著者が記す「懺悔の書」とありますが、本文を読むとまさしくそのものずばり懺悔をしています。お金儲けばかりを優先して、人間を大切にしてこなかったことを反省するなかで、キューバやブータンに行って、人々の幸せとはいったい何なのかを考えたというのです。これが対比として、実によく分かるのです。私も、前にキューバもブータンも、その実情を描いた本をこの書評欄で紹介したことがあります。
 著者がグローバル資本主義は間違っていると大きな声で叫び始めたわけですが、これを今さら遅いと叱る向きもあるようです。私は決してそう思いません。過ちは、まだ何とか是正することが可能なのです。もっとも無責任なのは、懺悔も後悔もせずに、論戦の場からこそこそと逃げ出していくような輩(やから)ではありませんか?
 グローバル資本主義は、世界経済活性化の切り札であると同時に、世界経済の不安定化、所得や富の格差拡大、地球環境破壊など、人間社会にさまざまな「負の効果」をもたらす主犯人でもある。そして、グローバル資本が「自由」を獲得すればするほど、この傾向は助長される。
 「改革」は必要だが、その改革は人間を幸せにできなければ意味がない。人を「孤立」させる改革は改革の名に値しない。
 アメリカでは、スーパーリッチ層が輩出した反面、かつてのアメリカを支えていた豊かな中流階級の人々が「消え去った」。所得上位1%の富裕層の所得合計が、アメリカ全体の所得に占めるシェアは、8%から、なんと17%にまで急上昇した。
 ヨーロッパ諸国では、かなりの銀行に公的資金が投入され、事実上の国有化がすすんでいる。
 今回のバブル崩壊の結果、アメリカが主導してきたグローバル資本主義は大きな方向転換を迫られる。
 グローバル資本主義には3つの本質的な欠陥がある。その一は、世界金融経済の大きな不安定要素となること。その二は、格差拡大を生む「格差拡大機能」を内包し、その結果、健全な「中流階層の消失」という社会の二極化現象を生み出すこと。その三は、地球環境汚染を加速させ、グローバルな食品汚染の連鎖の遠因となっていること。
 いまや、グローバル資本主義はフランケンシュタインのモンスターさながら、その創造主である人類そのものを滅ぼしかねないほどに暴走してしまった。
 新自由主義思想は、一部の人々、はっきり言ってしまえばアメリカやヨーロッパのエリートたちにとって都合のいい思想であったから、これだけ力を持った。これは格差拡大を正当化する絶好の「ツール」になりうるものである。
 コーポレート・ガバナンス改革が進むにつれて、実際に起こったことは、実は未曾有の「高額報酬の常態化」であった。
 いやはや、これはひどいですね。私も、コーポレート・ガバナンスって、少しはましなものかと錯覚していました。とんだまちがいでした。いまの経営者に期待するのは幻想でしかないのですね。キャノンの御手洗をよく見ていれば分かることではありますが……。 
 自分のことしか考えず、日本人の多くの若者がどうなろうと知ったことじゃない。そのくせ、今の若者には倫理観が欠如しているから道徳教育が必要だというんですからね。笑止千万ですよ。プンプン。
 従来の資本主義とグローバル資本主義は、同じ「資本主義」という名を冠していても、そこには大きな質的な違いがある。グローバル資本主義においては、労働者と消費者が同一人物である必要はないからである。
 プレカリアートとは、プロレタリアートをもじった言葉で、不安定な立場に置かれた無産階級という意味。
 日本は、いまや貧困層の割合がアメリカに次ぐ世界第2位の「貧困大国」になっている。日本の「平等神話」は崩壊している。日本は、4世帯に1世帯が貧困に分類される国。貧困層に冷たい国になってしまった。
 シングル・マザー(ファーザーも)世帯の貧困率は60%に達している。日本が「希望なき貧困大国」から脱することがなにより優先されるべき政策課題だ。日本社会が安定することこそ、日本の底力を発揮するための前提条件である。
 大変すっきり読みやすい、告発の本でもありました。
(2009年2月刊。1700円+税)

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