弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年2月 4日

対テロ戦争株式会社

アメリカ

著者 ソロモン・ヒューズ、 出版社 河出書房新社

 イギリスのジャーナリストが、対テロ戦争と名付けて金儲けに狂奔している保守本流やネオコンの政治家たちを鋭く告発しています。思わず身震いするほどのおぞましさです。
 9.11のあと、投資家たちに現金を出資しないかと声がかかった。アメリカは、以前から、災害をタネに金を稼ごうという企業家たちに事欠かない。見積もりによると、9.11のあとアメリカ政府はテロ対策費に600億ドルを費やすと考えられた。
 対テロ戦争とは新しい奇妙な混合物であり、新たな脅威に立ち向かうべく増大する国家の力と、縮小に向かおうとする民営化論の現状を融合させたものだ。英米の政府は新しい力を握り、それをすみやかに民間企業にゆだねることで、新たな安全保障産業を生み出した。
新しい警備保障会社は国内にある民間の拘置所に人々を監禁し、外国では銃をうつことができるようになった。刑務所や難民収容所の民営化によって、国が独占してきた力を営利企業に下請けさせられるという原則がうちたてられた。アメリカで1984年に民間刑務所が開設し、イギリスで初めてのウォルズ拘置所が開所したのは1992年。
ところが、現実には、新しい民間刑務所は、公営の刑務所より効果的でないことが明らかになった。民営化された刑務所で、企業は犯罪者の更生には関心を持たない。収監者の自殺や自傷行為の発生率が全国平均よりも高くなった。やる気をなくした職員は、自分たちの困難な任務に対処できなかった。民営化された少年院では、暴力と虐待が横行した。
 イラクのアブグレイブ刑務所における収容者への虐待行為には、アメリカの民営刑務所で懲戒処分を受けた3人の男たちも関与していた。
 イギリスでテロ容疑者として逮捕された人々が裁判手続によらずに自宅監禁とされ、電子タグをとりつけられた。電子タグを監視するのは民間の警備保障会社である。ところが、この電子タグが実はいいかげんなもので、現実には機能していなかった。
 民間による安直な自宅監禁が、その指令に従った善良な人々の精神を破壊し、もとから強い意志を持っていたテロ容疑者は逃亡をゆるした。
 うへーっ、これって、ひどいですね。そんな杜撰なものなんですか、電子タグって……。
 アフガニスタンにおいて、アメリカのダインコープ社は警察の再建に取り組んだことになっている。5年間でダインコープ者は11億ドルを受け取った。しかしながら、アフガニスタン国家警察は、犯罪に対してもタリバンに対しても何ら有効に機能していない。
 イラクにおいて、英米の当局は、契約書に署名するだけで、契約した民間業者が軍事機構に熟練した人員をたっぷり補ってくれるものと信じていた。市場の優越という原理によって、イラクの民間兵士が占領軍に効率と創意をもたらすだろうと確信していた。ところが、現実には、民営化は占領の妨げになった。民間業者がもたらしたのは、腐敗と失敗そして暴力だった。重要なことは、民間業者がイラクという国家の崩壊に貢献したことだ。イラクの政府と経済はバラバラに解体された。
 イラクにおけるもっとも重要なアメリカの財産の2つ、アメリカ大使館と司令官はアメリカ軍によってではなく、雇われた兵士の手で守られていた。
 イラクにいるアメリカ軍部隊は14万人。民間業者に雇われている人は10万人。ある人は4万8000人の警備員が180もの別々の会社にやとわれていると見積もっている。
 しかし、民間軍事会社のもたらす最大のコストは、政治的なコストだ。彼らの存在や影響は、戦略を捻じ曲げ、テロ戦争をさらに大きな軍事行動へと押しやった。
 民営化された占領は、実際には、欠陥だらけの困難なものだったが、企業は公共セクターより効率的であるという先入観を持つ英米当局は、民間軍事会社の売り口上を素直に受け入れた。民間軍事会社にしてみれば、商売の宣伝をしていたわけで、自分たちの能力を過大評価気味に言いたてるのは当然のことだった。
 イラク経済へのアメリカ企業の侵攻は、再建の失敗によって、反乱者となる敵を増やす結果となった。第一に、基本サービスの失敗がイラクに住む人々を遠ざけてしまった。サダム体制のころより水が汚れ、電気が足りず、病院や学校が貧しくなった。お金はアメリカ企業を伝って、イラクに届く前に湾岸諸国の契約業者に滴り落ち、現金の鎖は、情実・賄賂・腐敗のためにすり減って切れた。そのあとに残ったのは怒りだった。失業者やろくにサービスを提供されない人々は、反乱の呼びかけにすぐ反応した。
 イラクの安定のために雇われた兵士を使うという決定は、サダム後のイラクの失敗の原因となった。アメリカ・イギリス連合軍はイラクで敵を打ち負かしたが、気がつくと、周囲に友人はほとんどいなかった。サダム体制が終わったことへのイラク国民の安堵は、まもなく米英占領軍への怒りに変わった。加えて、占領軍の悪行は、ただイラクの人々の心を失う方にしか作用しなかった。
 2003年の侵攻から数年のうちに、イラクとアメリカの何億ドルものお金が帳簿から消え失せた。それでも、腐敗の罪を問われる当局者はほとんどいなかった。
 イラクで活動する最大の傭兵グループの一つは、南アフリカから来た。
 イラクは戦場の民営化、占領業務の契約業者への移譲という試みの、きわめて壮大な実験場となった。その結果に疑問の余地はなかった。新しい傭兵たちはイラクの失敗を助長した。彼らはひたすらイラクからお金をしぼりとった。イラク自身の治安部隊をつくる代わりに、警備保障会社を利用することの利点と見えたものは、すべて空論だということが判明した。軍事部門の民営化がおしすすめられていったとき、その民間企業の経営陣には、ネオコンやタカ派の政治家たちが名を連ねている。ディック・チェイニー、ドナルド・ラムズフェルド、リチャード・パールなど……。
ひどい、ひどい。「民営化」の美名のもとに、自分たちはぬれ手に粟でもうけていたわけですよ。許せません。ネオ・コンの連中なんて、汚い金もうけの戦争屋でしかありません。広く読まれてほしい本です。

(2008年10月刊。2400円+税

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