弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年2月 2日

昆虫、4億年の旅

生き物

著者:今森 光彦、 発行:新潮社

 うひゃあ、すごい、すごーい。昆虫って、こんなにきれいだったのか、えーっ、こんな不気味な色と形をしていたの・・・。身近な昆虫たちを間近で見ると、まったく驚きと発見にみちみちています。くっきり鮮明なカラー写真が200点もあって3600円とは、なんと安いこと。写真を撮る苦労を考えたら、本当に申し訳ない気持ちになります。
 虫にとりつかれた子どもたちのことを、昆虫少年という。昆虫少年という言葉があるのは、おそらく世界中探しても日本だけではないだろうか。かけ事ではない、カブトムシを喧嘩させて遊ぶ純粋な子どもたち。こんな国は、世界広しと言え、いちども見たことがない。「ファーブル昆虫記」のファンの数も日本が世界一だというのも十分納得できる。日本の子どもたちは、美意識と科学心にあふれる好奇な目で、昆虫たちを見ている
 頁をめくって一番始めに登場するのが南米(ブラジル)に棲むヨツコブツノゼミの顔です。頭の上のほう(オプションには胸部とあります)に、たしかに4つのコブがついているのです。その奇妙さといったら、思わず噴き出してしまいそうです。そして、このヨツコブツノゼミから、「おまえ、今、なんか笑ったか?」と重々しい声で問いを投げかけられたら、あわてて口に手をあてて、「いえ、別に・・・」と返事して、ごまかすことでしょう。世にも珍妙なるセミです。ぜひ、実物を写真でご覧ください。
 インドネシアに、ホタルのとまる木があるというのは聞いていました。幾万とも知れないホタルが高さ20メートルの木に集まり、集団発光するのです。いやあ、一度ぜひ見てみたいですね。こればっかりは、写真では実感できません。我が家から歩いて5分のところにも初夏(梅雨前)になるとホタルが飛びかう小川があります。最近、そのすぐ近くで道路工事をしていますので、今年もホタルがちゃんと見れるのか、今から心配しています。
 著者は、プロの写真家になる夢を捨てず、大学を卒業してコマーシャルスタジオに2年間勤め、ファッションや料理など、あらゆるコマーシャル撮影の技術を習得した。そして、著者は29歳のときから、毎年3ヶ月間、のべ2年4ヶ月の歳月をエジプトでのスカラベ撮影に費やした。2年目から昆虫学者(佐藤宏明)がアシスタントとして同行し、著者が写真をとり、助手は生態に関する論文を執筆した。いやあ、すごい執念です。大したものです。
 取材ノートが公開されていますが、手書きの絵もまた実に精妙です。細かいところまでよく観察していることが実感できます。
 虫の卵というのが、こんなに個性的なものであって、虫によって色も形もまるで異なるものだということも知りました。まるでケーキ屋さんの店頭にたくさんの新作ケーキが並べられている感じです。いかにも美味しそうな色をして輝いています。これって、きっとケーキ職人の新作づくりの参考になるんじゃないかと思います。
 昆虫ではありませんが、オーストリアにいるメリディオナリスシロアリのつくった塚が大平原に立ち並んでいる写真は不気味です。西洋の墓地、今でいうと、イラクで戦死したアメリカ兵の墓地を連想させます。
 よくぞ、これだけの写真を撮って公開していただきました。感謝感激です。ありがとうございました。これからも身の危険には十分用心して、頑張っていい写真を撮って公表してくださいね。
 久しぶりに湯布院の温泉につかってきました。初日は小雨模様のなか、夕方、金鱗湖あたりを歩いたのですが、観光客の中にハングルや中国語を話している人の多さに驚きました。
 2日目は雨も上がって、青空の見えるなかを歩きました。小さな美術館がいくつもあるのは湯布院の良さですね。依然として変に俗化していないので、とてもいい雰囲気です。お昼を金鱗湖に面したレストランで、湖の先の山々を見ながら、美味しくいただきました。由布岳の頂上は、白く霧氷で覆われていて、浩然の気を大いに養うことができました。

(2008年7月刊。3600円+税)

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