弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年1月 1日

ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト

人間

著者:ニール・シュービン、 発行:早川書房

 何十億年にわたって、すべての生物は水中にしかすんでいなかった。そのあと、3億
6500万年前の時点では、生物は陸上にも生息していた。水中と陸上という2つの環境における生活は根本的に異なっている。水中で呼吸するためには、陸上で呼吸するのとは非常に異なった器官を必要とする。排出、摂餌、運動についても同じ。だから、それまでとはまったく違った種類の体を作り出さなければならなかった。
 カエルとヒトのあいだには、並はずれた類似性がある。
 上腕・前腕・手首や掌さえもつ最古の動物は、ウロコと膜を持っていた。そして、その動物は、なんと魚だった。
 歯を知らなくして人体について理解することは、事実上、不可能である。歯を調べるだけで、その動物について多くを知ることができる。歯の隆起、くぼみ、畝(うね)は、歯の持ち主が何を食べていたかを反映している。歯は、動物たちの生活様式をのぞきこめる強力な窓になっている。
 哺乳類が持つ、もっとも際立った特徴のいくつかは耳の内部にある。哺乳類の中耳にある骨は、他のいかなる動物のものとも似ていない。哺乳類は、3つの耳骨をもつが、爬虫類や両生類には一つしかない。魚類は一つももっていない。
 爬虫類のアゴの一部を形成したのと同じ鰓弓(さいきゅう)が、哺乳類の耳小骨を形成していた。内耳は、流動性のあるゲル状のリンパ液で満たされている。このリンパ液のなかに、特殊化した神経細胞が毛のような突起を突き出している。リンパ液が動くと、神経細胞の末端サービサが反応する。頭を傾けると、リンパ液に満たされた袋の上にある小さな耳石が動く。すると、この「袋状のもの」に入っている神経端末の感覚毛が曲がり、それが「あなたの頭は傾いている」と知らせる。
 ヒトの感覚器は、地球の重力化で働くように調整されている。宇宙カプセルの無重力状態で働くようにはなっていない。浮遊しながら、ヒトの眼が視覚的な上下を記録していくと、内耳の感覚器はすっかり混乱してしまい、いとも簡単に気分が悪くなってしまう。宇宙酔いは切実な検討課題である。
 ヒトが酒を飲みすぎると、血液中に大量のアルコールを取り込むことになる。耳の管の内部のリンパ液には、最初のうちはほんのわずかしか含まれない。けれども、時間の経過とともに、アルコールが血中から内耳のリンパ液のなかに拡散していく。アルコールはリンパ液よりも軽いので、アルコールが入ってくるにつれてオリーブ油が対流を起こしてリンパ液が渦を巻く。この対流が酔っぱらいに大混乱を引き起こす。有毛細胞が刺激を受けて、脳は自分が動いているのだと考える。しかs、動いてはいない。人の脳が騙されているだけのこと。
 ヒトの身体の不思議、魚との異同などが語られている面白い本です。


(2008年9月刊。2000円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー