弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年10月23日

格差は作られた

アメリカ

著者:ポール・クルーグマン、 発行:早川書房

 今度、ノーベル賞(経済学)を受けた学者の本です。たまたま読みました。ブッシュ政権を強い口調で批判しています。はっきり言って反政府系の硬骨漢です。こんな学者によくぞノーベル賞が授与されるものです。いえ、批判(非難)しているのではなく、ノーベル賞選考委員会をほめているのです。
第2次大戦後のアメリカでは、富裕層は少数で、中産階級と比べるときわめて裕福というわけではなかった。貧困層は富裕層より多かったが、それでもまだ相対的には少数だった。アメリカ経済には驚くほどの均質性があり、ほとんどのアメリカ人は似たような生活を送り、物質的にも非常に恵まれていた。
 経済が平等であったことに加えて、政治も穏便だった。民主党と共和党の間に外交や国内政策で広いコンセンサスがあった。
 ところが、1990年代に入ると、アメリカは政治的に中道で中産階級が支配的な国へと成長していくのではないことが徐々に明らかになっていった。小数のアメリカ人が急激に裕福になっていく一方、ほとんどの人々が経済的には、まったくか、ほんの少ししか向上していなかった。政治が両極に分裂し始めていた。
 今日、所得格差は1920年代と同等の高い水準にあり、政治的な分裂はかつてないほど進んでいる。共和党は右傾化し、所得の不平等が広がるのと同時に、今日の厳しい党派主義が生まれている。
 急進的な右派が力を得たことで、ビジネス界は労働運動にたいして攻撃を仕掛けることができるようになり、労働者の交渉力は劇的に減退した。経営陣の給与に対する政治的社会的抑制力は消えうせ、考慮特赦に対する税金は劇的に軽減され、そのほか実に様々な手段によって不平等と格差は助長されてきた。
 すべて諸悪の根源は、アメリカの人種差別問題にある。今でも残る奴隷制度の悪しき遺産、それはアメリカの原罪であり、それこそが国民に対して医療保険制度を提供していない理由である。
 うむむ、な、なーるほど、そういうことだったのですか。アメリカに国民皆保険制度が今なお存在しておらず、民間の営利会社である保険会社が保険制度を担っている本当の理由がやっと分かりました。
 先進諸国の大政党のなかで、アメリカだけが福祉制度を逆行させようとしているのは、公民権運動に対する白人の反発があるからなのだ。
 第二次大戦前のニューディール政策が始まると、富裕層は、所得税率が今35%なのに対して、63%から79%へと大幅に上昇した。最高時は91%にまでなった。法人税も14%だったのが、45%以上にまで上昇した。これによって富の集中が弱まった。
 ニューディール政策は、金持ちの資産の多くを税金でもっていった。ルーズベルト大統領は、その階級からは「裏切り者」だと見られていた。逆に、ニューディール政策の下で組合員の数と影響力は増大した。
 アメリカで起きたベトナム反戦運動は、1960年代そして1970年代初めのアメリカ社会に重くのしかかっていた。1973年に徴兵制度が終わり、ベトナムからアメリカ軍が撤退したあと、驚くほどのスピードで消滅した。反戦運動家はほかの事に関心を移し、過激な左派主義は重要な政治勢力として根付くことは無かった。
 レーガンは、共産主義の脅威に対する大衆の被害妄想をくすぐることに成功した。
 アメリカ人は自国を危うくするものは非常に簡単に運動力によって排除できると思い込んでいる。自制を唱えるものは、よくて弱腰、悪くて国家への反逆。
 保守派は、一般大衆の感情にアピールするための二つのことを発見した。その一は、白人の黒人解放運動に対する反発と、共産主義に対する被害妄想であった。
 1970年に平均的な労働者の給料の30倍だったCEOの所得は、今日では300倍以上にも跳ね上がっている。1970年代、大企業のCEOは平均120万ドルの給与を得ていた。ところが、2000年に入ると、その報酬は年900万ドルを平均とするまでに上がった。これにより、今や平均して307倍になっている。
 アメリカの経営者には羞恥心というものがないのでしょうか。まさに自分さえ良ければということです。これでは、他人からも馬鹿にされてしまいます。ところが、今、日本の経営者もアメリカの経営者にならおうとしています。あの御手洗日本経団連会長(キャノン)も、自分のことしか考えていません。いやですね。口先では偉そうなことを言うのですからね。
 一人当たりの医療保険額で一番低いのはイギリスで、アメリカはその2.5倍。カナダ、フランス、ドイツと比べて2倍も高い。
 アメリカ国民全員に健康保険を与えるとしたら、当然のことながら、黒人、ヒスパニック、アジア系などの非白人を含むことになる。それを税金によって一番多く負担するのは、アメリカの富裕層である。そのほとんどは白人だ。一般の白人にとってはそれはとうてい受け入れられない。一部の白人は、黒人と同じ病院を使用することに猛反対した。
 今日でも、白人と黒人とが同化した教会はアメリカ全土で10%に満たない。え、えーっ、そうなんですか。博愛精神って、フェアプレイの精神と同じく今も生きる名言だと思いますけどね・・・・・・。 
(2008年6月刊。1900円+税)

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