弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年9月 5日

日無坂

江戸時代

著者:安住洋子、出版社:新潮社
 いやあ、うまいですね。すごいですよ。ただただ感心しながら電車のなかで夢中になって読みふけりました。いつのまに終着駅に着いたのかと思うほど、あっという間でした。
 父と息子がお互いに理解するのはとても難しいことだというのが、この小説の大きなテーマです。それを女性作家が見事に描き出しています。
 父のようになりたくはなかった。いや、なれなかった。薬種問屋の主人におさまった父と、浅草寺裏の賭場を仕切る息子。
 親と子の、すれ違い。謎解きが感涙に変わる江戸市井小説の名品。親と子のわがかまりと情を描き尽くす市井小説の名品。
 あの日の父の背中が目に焼きついて離れなかった。
 跡継ぎになることを期待されながら父利兵衛に近づけず、反発し、離れていった。あの日から10年、長男の伊佐次は、すっかり変わり果てた父とすれ違う。父は万能薬という触れ込みの妙薬をめぐって、大店の暖簾を守ろうとしていたのか、それとも・・・。
 以上はオビにある、うたい文句です。この本の内容を的確に簡潔にまとめています。山本一力の江戸世話物の世界とは一味違います。時代小説界の次代を担う新鋭の傑作長編というキャッチフレーズに異論はありません。次作が楽しみです。タイトルは、ひなしざか、と読みます。
(2008年6月刊。1400円+税)

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