弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年7月18日

ダラエ・ヌールへの道

著者:中村 哲、出版社:石風社
 15年以上前に発刊された本ですから、少し古くはなりましたが、アフガニスタンのことを少しでも知るためには決して古すぎることはありません。福岡出身の中村哲医師がアフガニスタンで、どんな活動をしているのか、それにどんな意義があるのかを知るうえで今も貴重な本です。なにしろ、日本の一般マスコミの報道があまりにも少な過ぎます。
 アフガニスタンに住むほとんどの人々にとって、西欧的な国民国家や民主主義など、想像もつかないしろものだ。それは、あたかも日本の源平時代や戦国時代の日本人に「近代国家」を強制しようとするに等しい夢物語でしかない。アフガニスタンの多くの人々には、もともと「国家」など頭の中にない。
 これは、イスラム原理主義者についても同じことが言える。アメリカは、後になって手を焼くことになる「イスラム原理主義」に対し、軍事的に肥大させるよう援助した。アメリカは、「生かさず、殺さず」式の戦争を継続させ、ソ連の国力を消耗させる戦略をとった。
 ダラエ・ヌール渓谷一帯は、いわゆるパシャイー族というヌーリスタン族の一部族が占め、戦争中もほぼ完全な自治体制をとって政治的利害から自由な地域だった。
 ここの山人は、ほとんど自給自足なので、絶対的な必需品はマッチと岩塩くらいである。石油ランプをもつ家庭が多いので、灯油も取引品として大切であった。緑の畑が広がっている。よく見ると、ケシ畑だった。
 中村医師は次のように断言します。
 現地では、非武装がもっとも安価で強力な武器である。だから、診療所内での武器携行を一切禁止した。自分自身が丸腰であることを示したうえ、敵を恐れて武器を携える者を説得し、門衛に預けさせてから中に入る許可を与える。無用な過剰防衛は、さらに敵の過剰防衛を生み、果てしなく敵意・対立がエスカレートしていく。
 私心のない医療活動は、地元民の警戒心を解き、彼らが著者たちを防衛してくれるようになった。渓谷のあらゆる住民が我々を必要として、その方針に協力するようになったのだ。アフガニスタンの膨大な水面下の人々にアピールしようとするなら、何も特別の宣伝はいらない。ひたすら黙々と誠実に仕事をしていたらいい。
 日本国憲法9条2項がアフガニスタンで生きていることを実感させられます。
 日本人の特性は、そのチームワークと勤勉さ、緻密さにある。だが、ペシャワールのようなところでは、これが裏目に出る。日本人は、一人で衝突をくり返しながら、現地の人々とのつきあいを切り開いていくたくましさに乏しい。
 うむむ、なるほど、なーるほど、そうなんでしょうね。
 アフガニスタンで今も医療活動を地道に続けている中村医師をはじめとするペシャワール会の活動に対して、日本人はもっともっと注目し、大きな声援を送るべきなのではないでしょうか。大喰いタレントやおバカキャラを笑いながらもてはやす前に、もっと真剣に考えるべき世界の現実があると私は思いました。
(1993年11月刊。2000円+税)

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