弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年6月 3日

ボローニャ紀行

著者:井上ひさし、出版社:文藝春秋
 私はイタリアには一度も行ったことがありません。ローマというより、ポンペイには、一度は行ってみたいと思うのですが、著者が空港に着いたとたんに虎の子のカバンを盗られてしまったという話に恐れをなしてしまいます。なんと、そのカバンには300万円もの現金を入れていたのです。イタリアに長く住んでいた奥さんは、それを告げられて、何と言ったと思いますか?
 イタリアを甘くみたわね。イタリアは職人の国なのよ。だから、泥棒だって、職人なんです。
 いやあ、まいりました・・・。いやいや、なるほど、ですね。でも、そんな職人とはお近づきになりたくないものです。
 1945年4月、ボローニャの人たちは、当時、街を支配し占領していたナチス・ドイツ軍とイタリア・ファシスト軍に対して何度もデモを行い、ストライキを打ち、戦って自力で街を開放した。パルチザンとしてレジスタンスに参加した市民は1万7000人をこえ、そのうち2064人が戦死か銃殺された。ドイツ軍はドイツ兵が1人殺されるたびに無差別に選び出した市民を10人、報復として銃殺した。それで、2351人の市民が殺された。
 世界最古の大学であるボローニャ大学には1563年まで、校舎がなかった。学生は、街の広場や教会や教授の家で勉強していた。大学での単位取得試験は、すべて筆記と口述の併用。しかも、口述の単位取得試験は公開。同級生や下級生が押しかけ、市民も見学にやってくる。見学者に見守られなかで、教授から繰り出される質問にこたえなければならない。
 ボローニャのフィルム・ライブラリーには5万本の映画がある。人間であれば誰でも無料で利用できる。子どもが50人以上集まれば、いつでも映画が始まる。このシステムは、好きなことに夢中になっている人たちに資金を提供することでなりたっている。奇跡は、そこから始まる。
 いやあ、映画大好きの私にとって、こたえられないサービスですよね、これって。私は、ときどき自宅で古い映画のDVDをみています。でも、やっぱり、映画は映画館の大画面でみたいですよね。
 イタリアの憲法は、イタリアは労働に基礎を置く民主的共和国であり(第1条)、手工業の保護および発展を図る(第45条)と定めているくらいの職人国家である。だから、職人産業省もあれば、職人業保護法や職人金融金庫もある。ボローニャは世界の包装機械の中心地になっている。
 母会社の技術を持ち出すことは許されるが、母会社と同じものをつくってはいけない。ここのシステムが世界中から歓迎されているのは、機械と一緒に熟練した職人がついていくから。買い手側に機械を納品したらそれでおしまいではなく、しばらく職人が機械と一緒に暮らす。買い手の要望を聞きながら、機械の微調整をする。買い手側の技術者がその機械を完全に使いこなせるまで、職人がその地に留まる。
 うむむ、なーるほど、ですね。
 世界中から日本に観光客を集めるためにはどうしたらよいか? それは日本の町並みを100年間そっくりそのまま保存したらいい。そうすると、100年前の日本の姿をみようと世界中から人が集まってくる。
 そうなんですよね。100年前と言わなくても、もし、筑豊や三池の炭住街がそっくりそのまま保存されていたら、炭鉱労働者の生活を見学しようと人々が集まってくると思います。しかし、残念なことに、今ではまったく残っていません。東京・上野に下町風俗博物館がありますが、あれをもっと大きくして保存していたら良かったのです・・・。日本全国で、いや全世界で商店街の空洞化がすすんでいます。郊外型の大型店舗のせいです。
 商店街を専門店の有機的な集合体にするため、改装費用を援助する。商工会議所に店員専門学校を設立してプロの店員を育てる。商店街の内部を改造して学生や老夫婦の住居にする。都心に映画館や劇場をふやす。
 大賛成です。ぜひ日本でも実行してほしい施策です。
 今度、3たびイタリアの首相になるベルルスコーニは、会計帳簿の不実記載を軽微な犯罪とした。刑事罰の対象から、単なる反則金で処理されることになった。これで、脱税や資金洗浄などのマフィアがらみの違法ビジネスが一層促進された。まさに盗賊支配の象徴である。
 ベルルスコーニ政府はマフィアから誘拐されて巨額の身代金を要求されたとき、身代金を公的に貸与する機関をつくろうとも言いだしました。とんでもない提案です。
 いま、ボローニャ大学には120人の日本人学生がいる。うむむ、多いと言いたいのですが、フランス留学生の人数に比べたら(実は、知りません)、きっと少ないと思います。
 私はカルパッチョが大好物です。このカルパッチョというのが、ルネッサンス期のイタリアの画家の名前だというのを初めて知りました。薄切りの牛フィレ肉の赤身が、画家カルパッチョのよくつかった赤色に似ていたということなのです。
 私の尊敬する著者による、軽妙タッチでありながら、大変勉強になった本でした。
 庭に淡いピンクのグラジオラスの花が咲いています。その近くに、ヒマワリが1本すっくと立ち、東向きに大輪の花を咲かせています。ヤマボウシの木の白い花も見事です。有馬温泉に行ったとき、大木になったヤマボウシが白い花をたくさん咲かせていました。そのそばに朱色の百合の花が咲いています。
 夜、ホタルを見に出かけました。まさに乱舞していました。夢幻の世界です。子どもたちが大勢はしゃいでいました。私も童心にかえりました。
(2008年3月刊。1190円+税)

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