弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年4月11日

ハイチ、いのちとの闘い

中南米

著者:山本太郎、出版社:昭和堂
 2003年7月27日、ハイチの首都ポートプランス空港におり立ち、2004年3月10日、ハイチからニューヨークへ身ひとつで脱出した日本人医師の体験記です。
 ハイチの失業率は70%をこえ、国民の3分の2以上が1日2米ドル以下という貧困生活を送っている。国民一人あたりの国内総生産は400ドル。これは日本人一人あたりのそれの70分の1にすぎない。
 面積2万8千平方キロに860万人の人口。国民の90%が黒人、10%が黒人と白人の混血のムラトー。雨が多く、本来は緑豊かな島国だが、長年の森林の無秩序な伐採によって、国土の森林面積の90%を失い、いまや薄赤茶けた肌が露出する山々だけが無惨な姿をさらしている。
 ハイチの隣にドミニカ共和国がある。東側3分の2を占める。人口800万人の国。ハイチから1844年に独立した。ドミニカ側の山には緑が残っている。ドミニカの方が物価が安く、ハイチの3分の2程度。
 大半の住民はクレオールしか話さず、フランス語を話すのは人口の10%程度、エリートに限られている。クレオールは、ピジンと違って、それ自身が文法的にも表現能力としても充実した土地の言語である。クレオールはハイチだけでなく、世界各地でつかわれている。マルチニク、グアトルループなど・・・。
 NHKラジオのフランス語講座でハイチが取りあげられて勉強したことがあります。
 ハイチは、独立して200年間、独裁と政治的混乱を繰り返してきた。
 ハイチでは、ハイチ・ドルという実体のない、つまり紙幣やコインのない仮想通貨が日常的につかわれている。正式な流通通貨であるグルドでいうと、5グルドが1ハイチ・ドルということになる。10ハイチ・ドルは50グルドで、これは1.25米ドル。
 ハイチでは何ごとも交渉によって値段が決まる。 ハイチに住む日本人は18人ほど。
 ハイチの成人人口の5〜10%がHIVに感染している。エイズ治療薬は、かつて年間1万2000米ドル(144万円)かかるといわれていたが、今では300米ドル(3万6000円)にまで低下した。
 ハイチに暮らす860万人に対して、島の外、海外に150万人のハイチ人が住んでいる。
 デュバリエ独裁時代は恐怖の中での秩序があった。自由と競争が、ある面で、社会を壊していく。アメリカがそうだし、自由のない社会での秩序は、それ以上に恐ろしいものである。これは、あるハイチ人の言葉です。
 著者は長崎大学の医学部を1990年に卒業した若手の医師です。アフリカ諸国でも活躍されています。このような日本人がいるおかげで、日本人に対する海外の評価は高いのですよね。頭の下がる思いをしながら読みました。
(2008年1月刊。2400円+税)

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