弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年2月29日

私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか

司法

著者:島村英紀、出版社:講談社文庫
 64歳で逮捕された教授(地震学者)の書いた本です。2006年2月から7月まで、なんと171日間も札幌拘置所暮らしを余儀なくされました。その拘置所での日常生活が、ことこまかく紹介されています。
 札幌拘置所には暖房器具はない。建て替え前は、暖房もなかった。今は廊下に暖房がある。そうなんですね。だから警察の留置場(代用監獄)のほうがいいという被疑者もいるのです。悪いことをした人間にエアコンなんてぜいたくだという「素朴な」国民感情がある限り、冷暖房は難しいでしょうが、本当にそれでいいのでしょうか・・・?
 拘置所の廊下を歩くときには、真ん中を、まっすぐ前を向いて歩くことが要求される。決して拘置所に収容されている人と目を合わせてはいけない。
 昼食は午前11時すぎに配られる。昼食後は昼寝してもいい。平日だと12時半から1時間。土日と休日は、12時半から2時間。これ以外の時間は横になってはいけない。
 就床は曜日にかかわらず18時。フトンを敷いて横になってもいい時間だ。就寝は、曜日にかかわらず21時。これは、寝なければいけない時間。これ以降、起きていてはいけない。
 食事は歯ごたえのあるものは、ほとんどなく、柔らかいものがほとんど。長期収容者に歯の悪い人が多いせいだろう。比較的に低脂肪で、魚タンパク、練り製品が多い。野菜は煮たものが多い。ワカメ、昆布、ヒジキなど海草類は多い。
 塩分は多すぎで、デザートや果物が意外に多い。麦が1割ほど混じった米飯は、想像していたより悪くはない。よくかむと甘い。巨大なコッペパンも出る。焼き魚は、焦げていることが少なく、うまい。
 本は合計して98冊を借りて読んだ。
 著者は詐欺罪で起訴されました。ところが、被害者とされた北欧(ノルウェー)の大学の代表者が法廷で詐欺にはあっていないと証言したにもかかわらず、有罪(懲役3年、執行猶予4年)となりました。研究費を私的流用したという点を検察官は立証できなかったのに・・・。
 ところが、著者は控訴しなかったのです。控訴してもムダだと判断したわけです。
 その理由の一つに、札幌高裁には、有罪を乱発するので有名な裁判官がいて、その裁判官が担当する可能性が高いということがあげられています。なるほど、たしかに、そういうことも、現実には考慮されていることです。控訴したあげく執行猶予どころではなく、実刑になっては大変ですからね。だけど、司法って、そんなにあてにならないものであっていいのでしょうか・・・。
 そして、真実追究とか名誉回復とか悔しいという気持ちより、残された人生を本来やりたいことにつかったほうがよほどいいと判断したというのです。
 なるほど、それも一つの決断だと弁護士生活35年の私も思いました。私の体験でも、司法は、それほど、あてになる存在ではありません。勇気のない裁判官(もっとも、本人はあまりそのような自覚はありません)が、それほど多いのです。
(2007年10月刊。533円+税)

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