弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年2月12日

ゾウ!

生き物(ゾウ)

 これは凄い写真集だ。オビに書かれた文句ですが、文字どおり信じていい写真集です。野生のゾウの素晴らしい写真が満載です。こんなに近くで野生ゾウを写真にとれるなんて、すごいことです。
 まず、1枚目のアフリカの乾いた大地を砂嵐をまき起こしながら進むゾウの大群の迫力に圧倒されます。そして、2枚目は、大自然とはうって変わって、人工的にペインティングされ、ごてごてと派手な衣裳を着せられたインドのお祭りに参加しているゾウに呆気にとられます。
 ゾウは人間と同じ家族構成をもっている。ゾウはお互いの信頼を大切にし、地域への愛着心をもつ。個体それぞれが特有の個性をもち、互いに低いグルグルという声で話しあうことさえする。幼い子ゾウの叫び声を聞くと、あまえる人間の赤ん坊を思い起こす。ゾウは偉大さを感じさせる動物である。
 ゾウの魂は人間そっくりだ。水飲み場で水をかけあって遊ぶ子ゾウをお母さんゾウは愛情あふれる目で見守る。いたずらな赤ん坊ゾウがあまり深いところに行くと、お母さんゾウがさっさと引き戻す。お母さんゾウが、もうおしまい、行くわよ、といえば誰もがただちに、さからうことなく、いつもいっしょに、やってきた時と同じようにキビキビと引き揚げていく。
 ゾウも人間と同じように、親を失った孤児の悲惨な環境で育つと、しばしばひどい情緒障害に陥る。
 年上のオスゾウは、自分がすることを見せて、大人のゾウの考え方を年下の若いオスに伝え、導く。若いオスが強暴になる(マストといいます)前に、群れを支配する年上のオスがいると、問題行動は起きない。
 ゾウの体は実にさまざまな色を発散する。日没時にはゾウの体に反射した光でゾウはピンク色。夜は青色で、朝にはオレンジ色になる。土ぼこりをかぶったゾウは茶色である。ゾウは色彩に富んだ動物である。
 なるほど、ゾウの色といえば、せいぜい茶色か泥まみれの灰色しか思いつきません。でも、この写真集には、たしかにさまざまな色のゾウが登場してきます。
 アフリカの水飲み場で、あまり大きくない子ゾウは自由に水飲み場に近づくことが許される。しかし、青年期から上の世代のゾウは、強くなければ池の縁に近づけない。ほかのゾウから押し戻され、順番はなかなかまわってこない。
 この100年間にゾウは1000万頭から50万頭にまで減ってしまった。ゾウのすむ国は46ヶ国だったのが、今や5ヶ国のみ。
 かつてアフリカの人々は、白人のハンターがゾウを狩るために船に乗って探検隊をつくって驚くほど多くのゾウを殺しまくる理由がさっぱり理解できなかった。かつて象牙はピアノの鍵盤をつくる最高級の材料とされていた。象牙は触感がよく、指の汗をほどよく吸収する。人間の音楽のために多くのゾウが殺された。
 かつてイギリスのビクトリア朝時代には、ビリヤードの球が象牙からつくられていた。一つの競技テーブルでつかう1セットの球をつくるのに2頭のオスゾウの牙が必要だった。
 ゾウは人間と同じようにいやな経験を忘れない。ゾウは個性的で、人間と同じように怒りやすい個体もいれば、おとなしいものもいる。いやな経験を恨みに思って復讐するものも、根がおだやかで平和的なものもいる。ゾウの個性は、祖先から受け継いだ遺伝的な素養と経験との不思議な組みあわせによっている。
 ゾウは体に空調装置を備えている。大きな耳はその一部で、パタパタとうちわのようにふって暑さを防いでいる。朝から昼へと気温が上昇するにつれ、耳のうちわをふるテンポが早くなる。大きな耳がたてたそよ風は、耳の血管を流れる血液をひやすばかりでなく、体をわたって体から熱を奪う。
 ゾウの長い鼻は、あらゆる動物の様々な器官の中で最高傑作といっていい。それは、手、唇、鼻を見事に統合したもので、多様な機能を兼ね備えている。ゾウは鼻で木を倒す。木をもち上げ、水を吸って吹き上げ、トランペットのように響く大きな鳴き声を発し、小さな一粒の植物のタネをつまみあげる。鼻は、きわめて敏感な長くのびるアンテナであって、空に向かってつきあげて風の運ぶ危険な臭いをかぎあてる。
 そして、強力な武器でもある。
 鼻で目に入ったゴミをとり、仲間のなでて安心させる。鼻をからめあう親愛の情のあらわしかたは、素晴らしい表現方法だ。
 足の裏と足の骨との間には、厚い繊維組織のクッションが働いて、接地の衝撃をやわらげる。
 海の中を泳ぐゾウの写真があります。タイでゾウが木材運びのため海に入って泳ぐのです。泳いでいるゾウって実にユーモラスな写真です。
 少々値がはる写真集ですが、ゾウの保存にささやかな貢献をしたいと思って買って手にとってみてください。
(2007年9月刊。6800円+税)

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