弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年12月21日

人間・周恩来

中国

著者:金 鐘、出版社:原書房
 周恩来の実像に迫った本です。序文には次のように書かれています。
 周恩来とは、複雑な政治の環境に身を置いた複雑な政治的人物である。周恩来は率直で親しみやすいように見えてなかなか腹を割らず、品格のある学者のように見えて残酷きわまる非人間的なふるまいをすることができた。その政治の内在的な傾向は右翼的でありながら、行為の上では極左的な態度を示すことができた。うわべは国家のため人民のため献身的に力を尽くすといったイメージだったが、実際には大独裁者、毛沢東の共犯者だった。
 私も、最後の、毛沢東の共犯者だったことについては一も二もなく同感です。
 周恩来は、人民に貢献もしてくれたが、それ以上に人民に対して義理を欠いた人物である。序文の結びに、このように書かれています。
 周恩来は、文化大革命のなかで、中高級幹部や統一戦線の人士を何人も守ったが、運動全体の方向を変えたり、一連の重大事件の発生を阻止することについては、その気もその力もなかった。むしろ、周恩来によって動乱を引きのばし、それによってよりいっそう大きな損失を招くことになった。周恩来は、中国共産党内の最大の毛沢東擁護派だった。
 なーるほど、客観的にはそう言えるでしょうね。つまり、周恩来が徹底して反対していたら、文化大革命の顛末が相当異なっていたことは間違いないと思います。
 この本を読んで、周恩来が中国解放の前に裏切り者一家をみな殺しにしたことに責任があること、ソ連へ逃亡を図った林彪をモンゴル上空で撃墜させたことを知りました。
 周恩来は、1923年6月、パリ留学中に、国民党に入党している。ただし、その前の1921年にドイツ共産党とフランス共産党にも加入している。1923年6月から1926年3月までは、国民党員の身分で政治活動をしていた。
 中共中央軍事部長だった周恩来は、1931年、上海で特務工作課を指示して、中共を裏切った顧順章一家など16人を皆殺しにした。
 中国共産党内で批判された王明路線を具体的に実行していたのは周恩来だった。王明は中共内部に根をおろしておらず。スターリンがコミンテルンを通じて中共を指揮するための道具に過ぎなかった。
 林彪の乗った飛行機は、ミサイルで撃ち落とされたが、その撃墜命令を実行したのは、内モンゴル自治区のある空軍司令部直属の地対空基地である。それは是が非でも撃墜せよという周恩来の命令を受けてのことだった。
 9.13事件の処理をする指令本部は北京の総参謀部におかれ、李徳生が24時間、陣頭指揮にあたっていた。林彪の飛行機は離陸してから撃墜されるまでのあいだ。完全にレーダーの監視下におかれていた。林彪の乗った飛行機はミサイルをうちこまれて左翼を大破してバランスを崩して操縦不能に陥り、着陸強行を余儀なくされた。そこは滑走路などない、起伏のある砂漠だった。着地したときの衝撃は大きく、燃料タンクが発火した。
(2007年8月刊。2200円+税)

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