弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年11月20日

新自由主義の犯罪

社会

著者:大門実紀史、出版社:新日本出版社
 またまた私の知らない言葉がありました。オンコール労働者です。みなさん、知っていましたか?
 オンコール労働者とは、企業が必要なときに呼び出し、必要なだけはたらかせる労働者のこと。呼び出しは、企業の都合によっておこなわれ、労働者は前日の呼び出しでも応じないと、次の仕事が得られないという、強制的かつ不安定な状態におかれる。就労日数も、一日から数週間と、企業の需要に合わせて決められる。
 これはアメリカの労働者についての言葉です。日本では、ワンコール労働者というのがあります。私は、これも知りませんでした。ワンコール労働者とは、電話一本で呼び出される労働者のこと。アメリカのオンコール労働者とほぼ同じで、一日単位の仕事について電話で派遣会社に仕事情報を照会し、直接、派遣先に出向いて就労する派遣労働者のこと。日雇派遣とかスポット派遣とも呼ばれる。
 ワンコール労働者に登録している労働者は、グッドウィルで270万人。同じ派遣大手のフルキャストで175万人もいる。日給は5000〜8000円だが、毎日仕事があるわけではないので、月収は10〜13万円程度。アメリカのオンコール労働者と同じく、低賃金で雇用保険も社会保険も適用されない。
 いやあ、これってひどいですよね。だって、昇給も昇進もまったくないのですよ。これでは人生設計なんて、まるで出来できませんよ。
 偽装請負とは、実態は派遣労働なのに、契約上は業務請負と偽装し、本来は派遣先企業が負うべき労働者の使用にともなうさまざまな責任を免れようとするもので、職業安定法や労働者派遣法に違反している。
 偽装請負では、請負会社は求められた人数の労働者をメーカーに派遣するだけで、指揮命令するのはメーカーだ。誰が仕事の指揮命令をするのかは、いざというときの使用者責任を問い、労働者の権利を守るうえで重要な分かれ目になる。
 この本に完済の大手電機メーカーN社というのが登場します。あくまで人件費が安上がりですむクリスタルとの取引を継続しようという勢力と、自社グループ内で技能社員を養成していこうという勢力との争いがあったというのです。長い目で見たら、技能社員を大切にして養成していくべきことは明らかだと思うのですが、目先の利益を追うと、そんなことを考えるゆとるはなくなるのでしょうね。
 この本には病院ファンドについても紹介されています。今、全国の病院、とりわけ自治体病院の経営が苦しい状況です。そこにつけこんでもうかろうという企業グループがあるというのです。とんでもない連中です。
 新たな投資分野なので、銀行や商社、不動産会社などが次々にファンドを立ち上げている。このファンドは私的病院だけでなく公的病院もターゲットとしている。現在、自治体病院600のうちの9割以上が赤字で、そのほかの公的病院も6割赤字経営。ここに公的病院の民営化がすすみ、ファンドのもうけの場となっている。
 いやですね、人間(ひと)の生命・身体を、もろに金もうけの道具にするなんて・・・。
 クレジット・サラ金による被害者救済を充実させるため全国を飛びまわっている福岡の椛島敏雅弁護士のすすめで読みました。勉強になりました。ありがとうございました。
 日曜日に、仏検(準一級)を受けました。晴れた青空の下、室内にいるのがもったいないような気がしましたが、2時間半ほどのテストが終わったときには花王石鹸のマークのような半月が空高く輝いていました。今回も事前に十分な予習できなかったのですが、前日と当日午前中、フランス語の勘を取り戻そうと、必死に辞書をめくって単語を復習しました。自己採点で78点です(120点満点)。まあ、なんとかパスしたかなと思い、秋風の寒さを身にしみながら帰路につきました。
(2007年10月刊。1700円+税)

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