弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年11月15日

ウォルマートに呑みこまれる世界

アメリカ

著者:チャールズ・フィッシュマン、出版社:ダイヤモンド社
 毎週1億人以上が、アメリカ国民の3分の1がウォルマートで買い物している。1年を通すと、アメリカの全世帯の93%が少なくとも一度はウォルマートで買い物をしている。2005年のアメリカでのウォルマートの売上げは、一世帯あたり2060ドルをこす。
 ウォルマートは、メキシコ、カナダにおいても最大の小売企業である。イギリスでは食品小売業として第2位。全世界で2006年にウォルマートで買い物した客は72億人にのぼった。世界の人口65億人よりも多い。
 ウォルマートの従業員は160万人。エクソンモービルの従業員は9万人。300万人もの人がウォルマートに商品供給する仕事に従事している。
 ウォルマートは旧態を打破できず、進化できないでいる。つまり、労働環境に問題がある。2005年秋までにアメリカ各地でウォルマートに対して従業員から40件もの訴訟が起こされた。休憩時間なしで働かされたとか、退社時刻のあとも無給で働かされたというもの。そして、外国人従業員245人が不法就労者として逮捕され、ウォルマートは連邦政府へ1100万ドルもの制裁金を支払った。
 サム・ウォルトンが1992年に亡くなったとき、ウォルマートの年間売上げは440億ドル、従業員は37万人だった。死後13年たった2005年に従業員はさらに120万人、売上高は2400億ドルも増えた。
 ウォルマートには、長年、一サプライヤーの売上げの30%以上のシェアは占めないという非公式のルールがある。一企業の運命を左右するという見られ方をしたくないから。つまり、ウォルマートと最大30%まで取引している企業でも、残り70%は他の販路を通じて販売している。
 ウォルマートは、やはり最後は価格がものを言うと主張している。他社より少しでも安く、というわけだ。
 ウォルマートの新規出店は、アメリカの雇用を増やしているのか、単に自社の従業員を増やしているだけなのか。
 過去7年間のアメリカ小売業界の雇用増加分の7割以上はウォルマートの成長によるものだった。ウォルマートが新規出店すると、最初の年は、地域の雇用は100人ふえる。つまり、ウォルマートの従業員が150人、同じ地域内で小売の仕事についていた50人は職を失う。ウォルマートの出店後、数年にわたって、小売業の雇用数は減り続け、5年たつと小売業の新規雇用数は100人ではなく50人にまで減る。
 人口500人から1000人の小さな町で小売店の売上げが47%も減っている。住民の多くがウォルマートへ来るまで買い物に出かけたからだ。アイオワ州内のウォルマートの店舗が45にまでふえたため、男子・紳士衣料品店の43%が閉鎖した。
 ウォルマートは、進出した地域の食品小売ビジネスの15〜30%程度のシェアを一気に地元の既存の食品店から奪いとる。
 従業員が20人未満の小さい小売店の数が減る。ウォルマートの新規出店から2年以内に3店がつぶれ、5年内に4店が閉鎖する。つまり、ウォルマートの出店とその成功は、既存の地元小売店の犠牲の上に成りたっている。新しく出店したウォルマートは、たしかに従業員を新規に300人雇用するかもしれない。しかし、その一方で、近くの小売店の従業員250人が職を失い、小売店4店が姿を消している。
 つまり、ウォルマートは何百人もの従業員を雇うが、新規出店から5年たつと、創出された新規雇用数合計は50人ではなく、20人を差し引いて30人になってしまう。たったの30人である。結論として、世論の関心度の高さに比べて、ウォルマートの新規出店による雇用創出効果はそれほど大きいものではなかった。
 私の生活する町の近くにイーオンが、でっかい郊外型ショッピングセンターをつくると言います。先日、宮崎に行ったら、郊外にありました。町中のシャッター通りはひどいものです。便利さの裏で、歩いて安心して買い物できる地域環境がなくなっています。
 ウォルマートで買い物する人は、ふだん忙しくて一度に大量に物を買う人たち。安くて質が悪くても、あまり気にはしない。
 ウォルマートが原因で地域に貧困世帯が増えている。アメリカ全国にすると2万世帯が貧困に陥っている。ウォルマートが新規出店して5年内に4つの小規模ビジネスが姿を消している。ジョージア州の貧困世帯の健康保険制度に加入していた子どものうち1万人以上が親はウォルマートで働いていた。
 ニューヨークにも、インドにもウォルマートは一店もない。ドイツや日本でも苦戦している。
 アメリカで消費されるサケのほとんどはアトランティック・サーモンだ。養殖サケの 95%を占める。チリ産だ。養殖サケは、養豚場の豚と同じ。狭いところに押しこまれ、病気を治すためでなく、予防のために大量の抗生物質がつかわれている。海底には大量の排泄物が堆積し、その周囲は死の海と化す。100万匹のサケが出す排泄物の量は、人口6万5000人の町の排泄量に相当する。そのうえ、サケに与えるエサも海洋汚染の原因になっている。
 大きいことはいいことだ。安いことはいいことだ。価格破壊、万歳。こう叫んでいるツケは高いと思いました。
(2007年8月刊。2000円+税)

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