弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年10月25日

靖国問題Q&A

社会

著者:内田雅敏、出版社:スペース伽耶
 この夏、私は知覧にある特攻記念館を久しぶりに訪れました。そこには、第二次大戦の最末期に特攻出撃して亡くなった若者たちの写真や遺書などが展示されています。広い講堂で、彼らの最期の様子を写真で示しながら語り部のおじさんの話も聞きました。見学した人びとが涙するところです。
 でも、ここには、大西海軍中将が「統率の外道(げどう)」と批判した無謀な特攻作戦について、それを命じた軍指導者の責任を問うような展示も説明も見かけません。私はまだ行ったことがありませんが、靖国神社にある遊就館も同じだそうです。
 戦争末期、軍幹部らは撃ち落とされることがわかっていながら、本土防衛のための時間かせぎ、国体護持のための温存という名目で、海軍兵学校、陸軍士官学校出の職業軍人には特攻をさせず、もっぱら学徒・少年兵を次々に特攻出撃させた。
 それも速成で技量も十分でなく、しかも満足に飛べないような整備不良の飛行機で出撃させ、敵艦に近づく前にほとんどが撃墜された。
 日本軍の残虐性を象徴しているのは、特攻だ。みんな志願して特攻にのぞんだと言われているが、上官に命令されたのだ。上官の命令は天皇の命令であり、志願しないとぶん殴られるから出撃する。
 この本は、39の問いに対する答えを示すという問答方式によって靖国神社をめぐる問題点を実に分かりやすく解説しています。著者は日弁連の憲法委員会などで活躍している弁護士です。私も最近、知りあいになりました。
 靖国神社は、国内法的に「戦犯」というものは存在しないという見解に立つ。しかし、このような見解は国際社会において容認されるものではない。
 河野洋平衆議院議長は次のように語った。
 「世代の問題ではなく、事実に目をつぶり、『なかった』と嘘を言うのは恥ずかしいこと。知らないのなら学ばなければならない。知らずに、過去を美化する勇ましい言葉に流されてはいけない」
 まことにもっともな指摘です。
 元軍人の遺族年金の支給については、いまなお「天皇の軍隊」の階級がそのまま生きているという指摘に驚かされました。まさに帝国陸海軍は現代日本に息づいているのです。1994年に、大将だった人の最高額は年間761万円。一般兵の最近は年104万円。7倍もの差がある。2004年に、大佐で年285万円、一般兵で59万円だった。ところが中国「残留」孤児に対しては自立支度金として、わずかな一時金(大人で32万円)。
 後藤田正晴元官房長官は次のように言った。
 「一国の総理(小泉首相のこと)が、今になって国会の答弁の中で、孔子様の言葉だと言って『罪を憎んで人を憎まずということを言ってるじゃないですか』なんて言うようではどうしようもない。それは被害者の立場の人が言うことで、加害者が言う言葉ではない。そういう意見が国会の場で横行するようになっては、日本という国の道義性、倫理性、品格を疑ってしまう」
 そうですよね。小泉前首相に品格なんて全然ありませんでした。
 中国との戦いに敗れたということを認めないまま総括を誤ってきたのが、戦後の日本であり、日本人の戦争観の根本的な問題がそこにある。
 日本はアメリカとの戦いで164万人の兵力を投入した。しかし、同じとき中国にはそれより多い198万人もの兵力が配備されていた。このように中国戦線の比重は非常に大きかった。ところが、あの戦争はアメリカの物量に負けたと総括することで、日本の侵略に抵抗した中国やアジアの人々の存在を忘れることにしたのだ。
 うむむ、これは鋭い指摘だと思います。私も大いに反省させられました。
 中曽根康弘元首相は靖国神社に初めて公式参拝した。しかし、中国や韓国・朝鮮など近隣アジア諸国から厳しい批判を受けて、以後、参拝を取り止めた。
 「やはり日本は近隣諸国との友好協力を増進しないと生きていけない国である。日本人の死生観、国民感情、主権と独立、内政干渉は敢然と守らなければならないが、国際関係において、わが国だけの考え方が通用すると考えるのは危険だ。アジアから日本が孤立したら、果たして英霊が喜ぶだろうか」
 後藤田氏も中曽根氏も、まことにもっとも至極な考えを述べています。同感です。靖国問題について、保革いずれの支持者であるにかかわらず、勉強になる本だと思いました。
(2007年5月刊。1500円+税)

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