弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年10月23日

ワーキング・プア

アメリカ

著者:ディヴィッド・K・シプラー、出版社:岩波書店
 アメリカの下層社会、というのがサブ・タイトルです。日本は相変わらずアメリカを手本として同じような社会になることを目ざしていますが、この本を読むと、アメリカのような社会になってはいけないと、つくづく思います。
 アメリカは経済的に繁栄したあげく、富める者と貧しい者の格差は拡大する一方だ。上位10%では、世帯平均83万ドル以上の純資産があり、下位20%では、わずか   7900ドルしかない。アメリカの平均寿命は短く、乳児死亡率は高い。
 アメリカ政府は大人1人と子ども3人の家族で年収が1万8300ドル以下の家庭を貧困と定義する。2002年には、その貧困率は12.1%となった。4240万人である。
 アメリカで働くためには、ソフトスキル、つまり仕事に就くために必要な、簡単なスキルを教える必要がある。そのスキルに欠けている人々の脱落率は高い。
 たとえば、バスの乗り方を知らないため、遅刻ばかりしている若い女性従業員がいた。時刻表が読めないし、バスに乗ったことがないため、バスの乗り方も知らなかったのだ。
 アメリカの成人の37%は、計算器をつかっても、値段の10%引きの計算の仕方が分からない。同じく10%の人々がバスの時刻表を読めず、クレジットカードの請求額の誤りに関するクレームの手紙一本も書けない。
 アメリカの大人の14%は預貯金入金票に記入した額を合計できないし、地図上で交差点の位置を探しあてることも、家電製品の保証書を理解することも、薬の正しい服用量を判断することもできない。
 親のなかには、ただの一度も自分の子どもたちを一緒に遊んだことのない人たちがいる。そうした子どもたちが親になったとき、親に遊んでもらった経験がないため、自分の子どもたちと一緒に遊ぶことが重要な仕事とは気づかない。
 私たちの大半は、親であるとはどういうことか、明確なレッスンなど受けることはない。私たちが知っていることは、すべて自ら少しずつ学んだ結果である。たとえば、両親から無意識のうちに吸収したり、ときには彼らと同じ失敗をくり返したり、ときには両親を反面教師にして彼らの過ちを逆手にとったりしている。
 最貧困層においては、子育てという仕事は、多くの困難があいまに起こる破壊的な相乗効果のダメージにさらされやすい。
 自分自身が愛に包まれていなければ、子どもにも多くの愛を捧げることができない。子どもたちを傷つけている親たちは、そうした状況にある。燃え尽きている。彼らは子ども時代に燃え尽きてしまった。人間として、親と良好な関係を築こうとしたにもかかわらず、親からあまりかわいがってもらえなかったからだ。だから、心を閉ざしてしまった。ストレスがたまりすぎていると、思考力が働かなくなってしまう。
 アメリカ人は、所得と学歴が低くなればなるほど、投票が重要だと信じる割合が低くなっていく。個人生活の試練に疲れ、権力機構について冷笑的であり、選挙はつまらなく、政治家は信用できないと考えている。
 アメリカ人は自分自身の階級的利害に即して投票しておらず、投票率が高まったときでも、貧しい人々は、階級的利害にそって投票はしない。
 投票は、不満よりも願望によって動機づけられている。アメリカ人の19%は賃金労働のトップ1%に入っていると考え、次の20%は将来はそうなると思っている。
 今の日本でも、年収300万円以下の労働者が全労働者のほぼ半数を占めている。貯蓄残高ゼロ世帯は1981年の5.3%から2003年の21.8%に増加した。
 日本の貧困層の増大も深刻です。ところが、自・公政権は相変わらず医療費や福祉の予算を削っています。アメリカ軍がグアムに基地をつくるのに3兆円も出してやるという「気前の良さ」があるのに、日本人に対してはこれだけ冷酷になれる日本政府って、いったい何なのでしょうね。
(2007年1月刊。2800円+税)

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