弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年8月 6日

青い光が見えたから

世界(ヨーロッパ)

著者:高橋絵里香、出版社:講談社
 いやあ、日本人の女性って、老いも若きもすごいですね。日本は昔から女性でもっているという実感がますますしてきました。読んでるうちに、なんとなく元気の出てくる本です。サブ・タイトルは、16歳のフィンランド留学記です。そう、あのフィンランドですよ。世界一の教育立国。ノキアの母国、フィンランドです。なんと著者は小学生のころ、ムーミンの本を読んで、フィンランドに憧れたといいます。そして、その初志を高校生になるときに貫徹したのです。たいしたものです。でも、著者の両親も偉いですよね。私は、著者とともに、その両親に対しても盛大な拍手を心から送りたいと思います。日本とフィンランドの親善大使を生んで育てた親に対して、日本人の一人として感謝したい気持ちで一杯です。
 日本の中学生だったころ、著者は、学校と教師が信じられなくなっていた。経験の少ない若い先生たちは体罰や脅しによって生徒に言うことをきかせようとしていた。宿題や教科書を忘れると、こぶしで頭を殴る先生、授業中に生徒が騒がしくなると急に大声で怒鳴ったり、教卓を蹴りたおしたりする先生が何人もいた。
 分かってくれると思った教師のところに、暴力はいけないと思いますと訴えにいったときに言われた言葉は、なんと・・・。
 オレは教師になりたくて、なったんじゃない。
 なんというセリフでしょうか・・・。これでは、日本の将来は真暗ではありませんか。「美しい国」どころではありません。ところが、参院選のとき、自民党は、こんな教育の荒廃をつくり出したのは日教組だと大宣伝していました。とんでもないことです。それは文部省(今の文科省)の責任でしょう。国定教科書をつくり、君が代・日の丸を押しつけ、卒業式で起立して歌わなかったら処分するだなんて脅しておいて、他人のせいにするなんて、みっともない、卑怯でしょう。私は、そう思います。いやあ、いけません。ついつい日本の荒廃した教育環境のことを考えて、怒りのあまり興奮してしまいました。
 フィンランドの学校では、昼食は無料。食堂でセルフサービス式で、好きなものを好きなだけ食べていい。11時から1時くらいまでの間なら、いつでも食べていい。無料なのは昼食代だけではない。授業料もタダ。すべて国の税金でまかなわれている。高校に通ってかかるお金は、教科書代と文房具代くらいのもの。いや、高校だけでなく、大学にも授業料はない。
 試験も日本とは違う。問題文はたいてい一行の文章であり、それに対して授業で習ったことだけではなく、自分のもっている知識をすべてつかって答えを書く。広く、いろいろな観点から考えた答えを書かなければならないので、テストの直前に丸暗記しても効果はない。
 学校は、生徒をお互いに競わせるようなことはしない。試験の結果が出ても、誰が一番良かったなどと先生は口にしない。成績は相対評価ではなく、個人個人の学習の成果に与えられる。だから、ついていけない人がいれば、お互いに助けあることができる。
 卒業試験は、教科ごとに春と秋の年に2回受けられる。しかも、全教科を一度にうけるのではなく、受ける科目の必修コースの単位が全部とれていたら、いつでも試験を受けていい。おまけに、卒業は入学してから3年後と決まっているわけではない。半数以上の人は3年間で卒業していくけど、4年間や3年半、また2年で卒業していく人もいる。著者はフィンランド語の勉強から始めて、なんと4年間で無事に高校を卒業できました。すごーい。パチパチパチ。盛大な拍手を送ります。
 高校を卒業してもすぐに大学へ進学するとは限らない。アルバイトに精を出したり、海外へ行って1年間の休暇をとって過ごす人もいる。
 小中学校、そして高校と休む間もなく勉強を続けてきたので、次の課程に進む前に一休みしようというケースはフィンランドでは珍しくはない。一年間、とくに何もせずに自分と向きあう時間をつくり、将来、自分がどういう道を歩いていきたいのか、もう一度考えなおす期間にする人が少なくない。
 フィンランド語をゼロから学び、高校生として4年間を過ごして立派に卒業し、著者は今やフィンランドの大学生です。すごく励まされました。人生には無限の可能性があることを実感させてくれる本でした。

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