弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年8月 2日

がんのウソと真実

著者:小野寺時夫、出版社:中公新書ラクレ
 著者は外科医で、消化器がんが専門の医師です。そして、自分も奥様もがんにかかり、手術や放射線治療を経験しています。医師として、がんで亡くなった患者を2000人以上もみてきたそうです。その経験にもとづく本ですので、かなりの説得力があります。
 今の日本における死因は、がんがもっとも多く、3人に1人。65歳以上だと2人に1人の割合になる。
 日本では、高度進行がんに手術をやりすぎ、逆に放射線治療をやらなすぎる傾向がある。高度進行がんに対する抗がん剤療法のやりすぎは、短い余命をそのために苦しみながら過ごさせるという悲惨な結果を招いている場合が少なくない。また、がんの痛みをガマンしている人は早死にするというのは、今では世界的常識になっている。日本では、苦痛の緩和が不十分なのに、延命治療に熱心すぎる。
 ほとんどのがん死は、亡くなるまでに年月がある。そもそも、がんの予後を正しく予測することは困難。しかし、治る可能性が高いのか低いのかは、予測できる場合のほうが断然多い。
 人は、どんなに高齢になっても、がんで助からないと分かって、年齢だからやむを得ないと、死をすぐ受容できる人などいない。告知を受けた人は、最初のショック、落ちこみから、いろいろな心情的苦悩を経て、早い遅いの違いはあっても、やがて、その人なりの心の平穏を得るようになる。人は死を意識してから、人として急成長することが多い。
 がんは、死因となるほかの病気とは、性質がまったく異なる。がんは、誤って発生したのではなく、もともと人の生命をコントロールするように仕組まれている。がんは他の病気と違って、注意しても予防できない運命的要素が強い。がんは、半年前とか1年前に発生したということはなく、20年も30年も前から始まっている。
 進行したがんは、目に見えるリンパ節やがんの周辺の組織をどんなに広く切除しても、目に見えないがん細胞がどこかに転移しているため、早かれ遅かれ再発する。
 高度進行がんについて、何の治療もしないのに、良好な状態で驚くほど長く生存する人が思ったより大勢いる。手術したものの数ヶ月内に再発した人のほとんどは、最初から手術適応がなかった。
 患者には化学療法を積極的に行ない、高度進行がんでも積極的に手術する医師が、自分の親が進行がんのときには、化学療法も手術もしなかったという例がいくつもある。
 なーんだ、そういうことだったのか・・・。そんな思いがしました。
 がん手術に名医はいない。名医が手術したらがんが治るというものではない。がん治療医に必要なのは、経験と適切な治療法の判断力、そして豊かな心情である。
 がんの免疫療法は、残念ながら、まだ研究段階にあり、実用にはほと遠いのが現実。
 がん細胞は異物だといっても、もともと人体にある細胞が遺伝子の異常で形や性質に違いを起こして生じたもの。がん細胞ががん抑制遺伝子の作用が弱いために生き残っても、ほとんど免疫力で死滅してしまう。がんができたというのは、自分の遺伝子を変えることで、免疫力の攻撃を逃れ通したツワモノ集団ができたということ。免疫力をくぐり抜けて出来たものを、免疫力の強化でなおそうというのが免疫療法である。だから、効果は期待できない。
 つまり、もともと免疫力を逃れてがんになっているので、がん細胞は免疫力に対する強い抵抗力をもっている。
 がんの末期患者は、なんでもいいから、好きなものを食べたほうがいい。食べ物の内容にあまりとらわれ過ぎてはいけない。余命の限られている人にとっては、「やりたいことをする」のがすべてだ。仕事、趣味、著述であれ、最後の整理業務であろうと、自分のやりたいことを体力の続くかぎりやること。これが人生を生き抜くうえでもっとも大切。副作用の強い抗がん剤療法や入院による代替療法を続けたあげく、死を迎えるべきではない。
 がんの患者に対して、「元気を出さないとダメ」「がんばって」などの言葉をかけるべきではない。死に近づきながら生きているのに、これ以上、何をどうしろというのか、
 お見舞いは患者が元気なうちにするべき。体調の良くない人に、いろんなことを長々と話しかけてはいけない。
 私は、父をがんで亡くしましたので、がんについては他人事(ひとごと)ではありません。この本は、とても実践的で、参考になりました。私は40歳になってから年に2回、人間ドッグに入っていますが、それは、私にとって骨休めと読書タイムを確保するためだと割り切っています。平日の夜、じっくり本を読むということは、意識的につくり出さないと、とてもうまれませんからね。弁護士を30年以上していると、自分の時間を大切にしたくなるものです。来年、私も還暦になります。自分でも信じられませんが、せめて気持ちのうえだけでも若さを保っていきたいものだと考えています。

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