弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年6月26日

王朝貴族の悪だくみ

日本史(平安時代)

著者:繁田信一、出版社:柏書房
 著者の前著『殴り合う貴族たち』という本には驚かされました。朝廷の内外で平安貴族たちは優雅にゆったり生活しているかと思っていました。ところが、なんとなんと、殴り合ったり殺しあっていたというのです。
 今度の本には『枕草子』の清少納言も危機一髪という展開です。藤原道長や藤原行成の日記をもとにしているとのことですから、信用できるのでしょう。それにしても驚くべき貴族の実態です。芥川龍之介の『芋がゆ』に出てくる下級貴族を思い出してしまいました。
 清少納言の実兄である前大宰少監(さきのだざいのしょうけん)清原致信(きよはらのむねのぶ)が、寛仁元年(1017年)3月8日、騎馬武者の一団に白昼、自宅を襲われて殺害された。その原因は、実は、このとき殺された致信がそれより前に当麻為頼(たいまのためより)を殺害したことにあった。
 ところが、当麻為頼を殺害した首謀者は和泉式部の夫である藤原保昌の郎党の一人であった。そして、清原致信殺害の首謀者であった源頼親(有名な源頼光の弟)は、ことが露見したあと、淡路守・右馬頭の官職を取り上げられた。しかし、それも長いことではなく、やがて伊勢守を、さらに大和守に任ぜられた。要するに、たいした処分は受けなかったのである。このように悪事をはたらいた貴族たちは、ことが発覚しても罰せられることもなく、幸せに栄達していった。
 永禄元年(989年)2月5日に開かれた公卿会議の議題の一つは、尾張国の百姓が朝廷に対して尾張守(おわりのかみ)藤原元命(もとなが)の罷免を嘆願したことにあった。その文書を「尾張国郡司百姓等解」(おわりのくにぐんじひゃくしょうらげ)という。その書面には、罷免を求める理由が31ヶ条にまとめられている。それは不当課税・不当徴税、恐喝と詐欺、公費横領、恐喝・詐欺の黙認その他となっている。元命の子弟や郎等、従者たちの不正についても問題とされている。徴税使が人々にぜいたくな接待や土産を強要するのを黙認した。子弟や郎等が郡司や百姓から物品を脅し盗るのを黙認した。息子が馬をもつ人々から私的に不当な税を取り立てるのを黙認した。子弟や郎等が郡司や百姓から私的に不当な税を取り立てるのを黙認した。などです。
 いやあ、今の日本でもこんな不正があっているように思いますよね。平安時代の百姓は、黙っていなかったのですね。この百姓たちの訴願によって、元命は尾張守を罷免されてしまうのです。すごいですよね。日本人が昔から、お上(かみ)にたてつかない、おとなしい羊の群れのようだった、というのは、とんでもない間違いです。むしろ、今の日本人のほうがおとなし過ぎて話にならないのです。年金記録5000万人行方不明なんて、今の安倍政府には国を統治する能力がないということを証明したようなものではありませんか。国民はもっと怒るべきです。

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