弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年6月21日

刑務所改革

司法

著者:菊田幸一、出版社:日本評論社
 日本の刑務所の現状と問題点について多角的に検討した本です。とても勉強になりました。
 最近、山口県で民営刑務所がオープンしました。PFI方式というそうです。法律が改正されないままに、このような刑務所民営化がすすむことに重大な疑問が投げかけられています。なるほど、そうですよね。その最大の問題は電子監視システムによって、職員と被収容者との対話によって処遇するという理念に反すること、人と人との信頼感を前提とするのではなく、警備的発想にもとづくシステムでいいのか、ということです。
 PFI方式と民営化とで異なるのは、PFI方式は、あくまで管理者は公共部門だということです。アメリカなどで、このPFI方式による刑務所が先行していますが、そこでは、企業の営利追求のあまり、民間職員が十分な装備も訓練も受けず、矯正に関してまったくの素人であり、ひたすら被収容者が満員であり続けることしか願っていないため、逃走事件までひき起こしているということです。それは職員全体の処遇を悪化させ、職員のやる気を失っていく心配があります。営利本位と矯正教育との両立は難しいのではないでしょうか。もっとも、フランスではうまくいっているという報告もあります。
 海外視察をした人が日本の刑務所を見ると、次のような感想を述べるそうです。
 日本の受刑者には表情がまったくない。つまり、暗い。能面のような顔をしている。外国の刑務所では、受刑者の表情が非常に豊かだ。訪問者に対して「こんにちわ」と挨拶もする。日本では考えられもしない。日本の収容者は、刑務所内ではまるでロボットだ。一列に並ばされ、軍隊式の行進を強制している。
 アメリカの多くの刑務所は、食事の場所こそ異なるが、受刑者の調理した同じものを職員も受刑者も食する。受刑者の大きな関心事である食事から人権尊重の姿勢を示そうということ。アメリカでは、受刑者が自分で調理しているという本も読みました。
 フランスでは収容者は私服を着ている。イギリスは制服だが、ジャケットをはおることができる。スイスは官給であっても、当局がいろんな服を買い集めて、支給している。
 日本では、刑務所内で作業しても、一人平均月4050円にしかならない。これは、就業に対する対価ではなく、恩恵として支給するものである。
 刑務所に入っているあいだ選挙権を奪うという現行法についての疑問も提起されています。自由を奪うだけでいいではないか、あくまで主権者の一人ではないか、ということです。アメリカやヨーロッパでは、受刑者にも選挙権が認められていて、不在者投票できるそうです。知りませんでした。
 刑務所内にいると、住民票がとれなくなることの不合理さの指摘もなるほど、と思いました。出所後、住民票がないことから生活保護が受けられず、ホームレスになるしかなくなるからです。このところ、無銭飲食事件を国選弁護人として担当することが何件もあります。前科者というレッテルを貼られると、社会内での更生はなかなか難しい現実があります。収容者はいずれ社会復帰するのだという視点から、刑務所内の処遇を考え直す必要があると、私はつくづく思います。だって、あなたの隣人になるかもしれないのです。社会全体がもっと温かく受け入れる姿勢を示さないと、報復と憎悪にみちみちたままかもしれないのですから・・・。

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