弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年6月14日

うなぎ丸の航海

生きもの(魚)

著者:阿井渉介、出版社:講談社文庫
 日本人の食べるウナギの相当量はヨーロッパから輸入される大西洋ウナギだそうですが、この大西洋ウナギの収穫量が激減しているそうです。この本は、日本産ウナギの産地探しの苦労話です。『アフリカにょろり旅』の主人公の先生たちも登場します。ウナギの産卵地調査は、年々減少の一途をたどるウナギ資源の確保のためでもあるのです。
 ヨーロッパウナギそしてアメリカウナギの産卵地が大西洋にあるサルガッソ海の数千メートルの深海であることが突きとめられたのは1922年のこと。
 では、ニホンウナギの産卵地は一体どこなのか。1967年、台湾の南、バミュー海峡でレプトセファルス(ウナギの仔魚)が発見された。1991年、マリアナ諸島の近くで、さらに小さなレプトセファルスが採集された。しかし、それ以上はなかなかつかめなかった。
 ウナギは群れをつくる魚ではない。一尾いっぴきが孤独に旅をして産卵場にたどり着く。
 ウナギの耳石によると、4月から11月、とりわけ6月から7日の新月の夜がウナギの産卵の日。6月の新月以前に到着したウナギは新月を待ち、それに遅れたものは海底の岩穴にひそんで7月の新月を待って、その日に産卵する。これを新月仮説という。
 レプトとして黒潮に乗ったウナギは、沿岸で体長を縮め、薄い葉っぱの形から初めて親と同じ姿になる。形は同じだが、透明なシラスウナギだ。これが河川に遡上すると黒くなる。そして、7月から10年くらいで、体長60から100センチ、銀色の光沢をもつ銀ウナギに成長する。すると眼を胸びれが大きくなって、台風の増水に乗って海に下る。そして黒潮に逆らうか横切るかして、延々数千キロを泳いでいく。海に入ると一切餌をとらず、胃や腸は縮んで消えてしまう。かわりに雌は卵、雄は精子で腹がはちきれそうに膨らむ。
 ただし、黒潮に乗って沿岸に達したウナギたちの中には、河川に遡上せず、一生を海水中に暮らすものもいるようだ。これはウナギの耳石に含まれるストロンチウムの解析から最近になって判明したこと。
 ウナギはなぜ数千キロの旅をして、卵を産みにふるさとに帰るのか。
 ウナギが数千キロを泳いで、この海まで卵を産みに来るのは、1億年もちきたったDNAによる。恐竜がのし歩く白亜紀にウナギの祖先は地上に現れた。現在のボルネオのあたりに。ウナギは熱帯のぬるく浅い水の中で、豊かな餌を食べて繁栄し、分布を広げていった。グアムに近い熱帯の海で産卵し、孵化した卵は、プランクトンとして北赤道海流と黒潮で運ばれつつ成長し、半年して親の姿になったところで接岸、そして河川に遡上、成熟して降海し、生まれ故郷まで、また数千キロの旅をして産卵という大回遊路を生きる形としてつくりあげた。
 すごいウナギの生き方です。これからは心してウナギのカバ焼きをいただくことにします。ハイ。
 いま、わが家の庭には白、黄色、ピンクそして朱色の百合の花が咲いています。まるで空に青い花火をうち上げたようなアガパンサスの花も咲きました。アジサイと同じで、梅雨の雨にうたれる風情がいいのですが、残念なことに今年は雨が少ないようです。田植えの準備がすすみ、あとは雨が降るだけです。

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