弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年6月11日

アダムの旅

著者:スペンサー・ウェルズ、出版社:バジリコ
 もし全人類が同じ種に属しているのだとしたら、世界中に目がくらむほどさまざま肌の色や体型、体格をし、さまざまな文化を持った人々がいることは、どうやって説明がつくのか。いったい人類はどこで発生したのだろうか?
 もっともな疑問です。黄色人種がいて、黒人がいて、白人がいる。白人が世界でもっとも優れた人種だと昔も今も声高に言いたてる人々がいます。本当でしょうか?
 遺伝に働くもっとも基本的な力は突然変異だ。これがなければ、多型も存在しない。突然変異というのは、DNA配列に生じる無作為の変化のことで、一世代について一ゲノムあたり30という確率で発生する。つまり、今生きている人は誰でも、両親と自分とを区別するまったく新しい突然変異を30個もっていることになる。突然変異は無作為に起こる。突然変異は細胞分裂の過程で生じた複写エラーによって生じる。
 すべての現代人の母系祖先「イブ」は15万年前、アフリカで暮らしていた。そして、哺乳類では、X染色体とY染色体が一つずつしかない不均等な染色体をもっているのは男性である。この本は、アダムとは誰だったのかを追求しています。
 Y染色体には対になる組換え可能な染色体がないので、組換えは起こらない。Y染色体はミトコンドリアのゲノムと同じく、混ぜ合わせられることなく、世代から世代へと永遠に引き継がれていく。
 Y染色体は、人類の多様性の研究の研究にもっとも有益な手段を集団遺伝学者に提供する。その理由の一つとして、分子の全長が1万6000ヌクレオチドしかないミトコンドリアDNAと違って、Y染色体は5000万ヌクレオチドと巨大であることがあげられる。だから、Y染色体には、過去に突然変異が起きたかもしれない場所が多数存在する。
 研究の結果、Y染色体系統がもっとも早く分岐したのはアフリカであることが分かった。この男性から今日生きているすべての男性がY染色体を受け継いでいる。その彼はなんと5万9000年前に生きていた。「イブ」の推定年代より8万年もあとだったのである。
 現生人類は、少なくとも6万年前まではアフリカにいた。類人猿の最古の化石は2300万年前のもの。類人猿が1月1日に現れたとすると、現生人類は12月28日まで出現せず、大晦日まではアフリカを離れない。人類がアフリカを離れて世界中に散らばっていったのは、地球上の生命の歴史や進化の中ではほんの一瞬のことに過ぎない。
 人間は1万年ほど前に突然、狩猟採集生活から定住生活に移行した。この変化は、世界のさまざまな地域でほとんど同時に同じ現象として発生した。
 インドでY染色体を調べると、階級間でミトコンドリアDNAの相違よりもY染色体の相違のほうが多く出現する事実は、男性が自分の階級に常にとどまっていたのに対して、女性は違う階級に移動できたことを示している。
 アメリカ先住民のほとんどの血液型はO型であるが、これは氷河期のシベリアを通って旅するあいだに、A型とB型が消えてしまったから。
 Y染色体系統のほうがより高い率で失われる理由として考えられるのは、少数の男性が生殖行為の大半を行うからだ。富と社会的地位を受け継いだ息子たちが、次の世代でも生殖行為の大半を行う者となる。子どもをもうけて子孫に遺伝子を伝える人の数は決して平等ではない。
 いま地球上にいるすべての男性の祖先である「アダム」は5万年前に東アフリカの地溝を出発し、インド洋を経て東南アジアから日本に到達している。
 中近東からヨーロッパに入ったのは3万年前のコースと1万年前のコースがある。アメリカ半島へは、1万年前にベーリング海峡を渡って到着した。
 Y染色体のなかにある遺伝子マーカーを調べて、現生人類がいつころ、どのようにして世界各地へ広がっていったかを明らかにできるという本です。まことに、地球上の人類はみな兄弟姉妹だということがよくよく分かりました。

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