弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年4月18日

労働弁護士の事件ノート

社会

著者:東京法律事務所、出版社:青木書店
 会社の経営が苦しくなってきたことを理由として人員整理がはじまり、労働者が解雇されることがあります。そのとき、その解雇に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえるためには、次の整理解雇の4要件をみたす必要があります。これは、一応、確立した判例になっています。
 ? 人員削減の必要性があること
 ? 解雇を回避する努力を尽くしたこと
 ? 解雇される対象者の選定に合理性があること
 ? 解雇手続きが相当であること
 これらの要件をみたしていないときには、その解雇は権利濫用として無効となります。
 ある事件では、会社が解雇通告した同じ月に、次年度に20人の新規雇用を計画していることを、その解雇対象者がインターネットで見つけて、それが決定打となって解雇は無効となった。企業は、投資家への情報開示のために労働者には見せない財務情報をホームページに堂々と公開していることがある。なーるほど、こういう手もあったのですね。
 「辞めろ、会社を。お前、いらん。迷惑かけてまで。どういう親や、顔も見たくない。辞表もってこい、辞表を」
 「会社の都合を考えていないだろう。そんな考えだったらいらんちゅうの。辞めてくれや、言うの。お前に払っている給料で2人雇えるんだからな。明日から会社に来んでもええで」
 これは損保会社で40代半ばの支店長が、50代前半の労働者を辞めさせようとして罵倒したときの言葉です。罵倒された労働者は録音テープを隠し持っていました。これが解雇無効につながりました。時と場合によって、相手の承諾なしでとった録音テープでも、裁判の証拠となりうるのです。
 この事件では勝利的和解が成立し、解雇された労働者は職場に復帰することができました。逆に、さんざん罵倒していた支店長のほうが退職してしまいました。
 労働者派遣が大流行しています。職場にいろんな種類の労働者がいて、団結することもできない労働条件のもとで、本当に生産効率は上がっているのでしょうか。私には疑問です。
 労働者派遣とは、派遣元である事業主と、労働契約を締結している者が、派遣元事業主との間で労働者派遣契約を締結した派遣先事業主の指揮命令にしたがって派遣先の事業場で就労する働き方のこと。派遣社員は、雇用する事業主と、指揮命令する事業主とが違うところに特徴がある。
 業務委託とは、一定の業務処理の委託を受けて、その業務を遂行し、それに対する報酬が支払われる働き方をいう。
 業務請負は、一定の仕事の完成を約束して、その仕事の完成に対して報酬が支払われる働き方をいう。委託も請負も、仕事の方法について指揮命令を受けないで業務を処理するのが建前。たとえば、請負では、仕事をする人は、注文主の指揮命令は受けず、求められるのは仕事の完成という結果のみ。
 首都圏青年ユニオン(労組)では、派遣労働者を組織して団体交渉を行った場合、派遣元企業から解雇を撤回させて復職させ、新しい派遣先を紹介させる、新しい派遣先が決まるまでの給料は派遣元企業が支払う、という内容で解決している例がある。
 さすがに労働事件専門の弁護士をたくさんかかえた東京の法律事務所がつくった本です。いろいろ大変勉強になりました。福岡では労働裁判は激減したままの状況です。

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