弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年2月19日

コトの本質

社会

著者:松井孝典、出版社:講談社
 中学時代の著者は、色浅黒く、剣道がやたら強いだけの少年だった。高校生になってからは、とくに際だつところも見られなくなった。学校の成績もトップレベルではなく、とくに目立つところは何もなかった。
 ええーっ、と思う紹介文です。著者は東大理学部に入り、今も東大教授をしています。アメリカやドイツで大学教授もしているのですよ。そんな人が、中学・高校時代に目立つ成績ではなかったなんて、とても信じられません。
 でも、この本を読むと、その秘密がなんとなく解けてきます。
 毎日が楽しい。ゴールがはっきりしているから。何のために生きているかそれがはっきりしているから。自然という古文書を、読めるだけ読んで死んでやろう。そう思って生きている。
 私の楽しさは、どう生きたいか、というところに根源がある。自分の人生なのだから、思うように生きてみたい。せっかくの人生だから、悔いがない形で、やりたいことはみなやって生きる。そう思っている。
 うーん、まったく同感です。私は、人間というものを知りたい、知り尽くしたい、そう思っています。本を読み、人の話を聞くのも、みんなそのためです。
 私の歓(よろこ)びは、考えるということと結びついている。考えていなければ、ひらめくことはない。それも四六時中、考えて考えていなければ突破できない。考えるということは、私の仕事。四六時中、考えに考えている状態。それが、まさに自分の望んでいた人生そのものなのだ。
 考えるべきことは、頭の中に全部ある。混沌として霧に包まれた状態のなかにあるが、解くべき問題としてはきちっと整理されている。頭が澄み切っていて、何でもことごとく分かるように思える。そういう日が一年のうちに10日くらいある。
 残念ながら、私にはそのような体験はありません。でも、今が一番、頭が澄み切って、冴えている。そんな気はします。少しは世の中のことが見えてきました。ですから、酔っぱらってなんかおれない。今のうちに、たくさん書いておこうという気になっています。
 過去と未来を考えて生きているのは人間だけ。人間という存在は、時間的にも空間的にも、限りなく広い領域で、その果てを絶えず求めている。そういう存在なのだ。脳の中の内部モデルとしては、果てというものはない。したがって、我々はそれを永遠に追い求めていく。
 やりたいことは、際限もなく出てくる。何でも興味があるから。
 この世に生まれてきたということは、どういうことなのか。それは、その間だけ、自分で好きなように使える時間を得たということだろう。その時間こそ自分の人生そのものなのだから。それを100%自分の意志のままに使いたい。それこそが最高の贅沢で、至上の価値だろう。
 自分の時間を人に売ってカネをもらうというのでは、何ともわびしい。自分の人生であって、自分の人生ではないようなものではないか。自分の時間を人に売り渡さず、考えることだけに没頭したい。
 うんうん、良く分かります。本当に私もそう思います。
 自分の知っている範囲のことをすべてだと思いこみ、あたかもそれが正論であるかのように、堂々としゃべる。そんな風潮が目につき過ぎる。そういう人たちには謙虚さがない。いまの日本は、限りなくアマチュアの国になりつつある。
 私とは何なのか、そもそもそれを考えたことのないような人たちが、平気で我を語り、我を主張している。
 問題がつくれない人は、エリートではない。解くべき問題を見つけるまでが大変なのだ。問題が立てられれば、解くのはある意味で簡単だ。
 学問の世界では、自分で問題がつくれなければ、プロとして本当の意味で自立することはできない。
 分かるということは、逆に言うと、分からないことが何なのか、ということが分かること。分かると分からないとの境界が分かること。
 自分の身体は自分のものと考えているかもしれないが、本当は寿命のあいだだけ、その材料を地球からレンタルしているだけ。死ねば地球に戻るもの。生きるというのは、臓器とか神経系とかホルモン系とかの機能を利用することであって、物質は、その材料にすぎない。物質は、その機能を生み出すために必要なものにすぎない。
 うーん、よく考え抜かれていることに、ほとほと感心してしまいました。さすがですね。すごい人がいるものです。私よりほんの少し年上の人だけに、つい悔しくなってしまいました。まあ、これも身のほど知らずではありますが・・・。
 きのうの日曜日、庭に出るとウグイスが澄んだ声でホーホケキョと鳴いていました。いつもは初めのころは鳴きかたが下手なのですが、今年は、初めから上手に鳴いて感心しました。梅にウグイス。もうすぐ春ですね。気の早いチューリップは、もうツボミの状態になっています。庭の隅の侘び助に赤い花が咲いていました。

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