弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年1月31日

老いて賢くなる脳

著者:エルコノン・ゴールドバーグ、出版社:NHK出版
 私と同じ団塊世代のソ連生まれで現在はアメリカで活躍している認知神経科学者です。名前から分かるとおりユダヤ人です。
 知恵は不思議に思うところから始まる。これはソクラテスの言葉だそうです。この本を読むと「定年」が間近に迫り、日頃、モノ忘れがひどくなったと嘆いている私ですが、年齢(トシ)をとっても脳は立派に活動できることを知って元気が出ました。
 著者は今、58歳。私と同じです。昔なら思いもしなかったような、面白い発想が出てくるようになった。年齢が上がるにつれて、頭をふりしぼるような作業はできなくなったが、洞察力は格段に伸びた。これでいいのかと思うくらい、楽々とものごとが見通せるようになった。
 神経の発生は大人になったらまったくなくなり、一路、減るばかりだと考えられてきた。しかし、これは間違いで、当初の勢いこそなくなるものの、神経の発生は生涯にわたって続くものである。
 ゲーテが「ファウスト」の第一部を刊行したのは59歳のとき、第二部はなんと83歳のときだった。
 ロナルド・レーガンは、二期目の大統領の途中から認知症を発症していた。レーガンの母も兄も認知症だった。
 ヒトラー、スターリン、毛沢東、そしてルーズベルトもチャーチルも晩年は認知症だった。しかし、死ぬまで政治力を発揮できた。それは、若いころに鍛えた認識能があったから。
 一度覚えてしまったことを忘れない人がいる。しかし、当の本人は不便きわまりないことに困惑している。どうでもいいこともすべて記憶しているので、重なりあう記憶やイメージがいつも洪水のように押し寄せて耐えがたくなるのです。だから、忘れるのは良いことなんです。
 脳のなかで揺るぎない長期記憶が形成されるまでには、かなりの時間がかかるし、多くの助けを必要とする。新皮質にある神経回路を繰り返し活性化させて、化学的・構造的な変化をうながさなければいけない。
 記憶とは、脳のなかで起きる電気的、化学的、構造的なプロセスによる相互作用である。
 記憶が保存されるのは、あくまで新皮質であって、脳幹や海馬ではない。ただし、海馬をはじめとする脳構造も、長期記憶の形成に必要不可欠な役目を果たしている。
 知恵とは、ほかの人が気づかない展開を予測できる能力のことである。
 パターン認識能力は、問題解決のための最強かつ最高のメカニズムである。
 優れた知恵をもつ人は、けたはずれに豊富なパターンを認識できる。これは脳のなかのアトラクタ数がちがうから。年齢とともに高くなるので、直感的にものごとを判断する能力だ。直感は、過去の膨大な分析経験が圧縮され、結晶化したもの。
 パターンの数が増えて一般性が高くなり、幅広い問題に対して瞬間的に解決策が導き出せるようになれば、それは知恵と呼ぶにふさわしいものになる。そして、精神活動のなかで、パターンを頻繁に活性化させていれば、脳の老化や痴呆の悪影響を受けにくくなる。パターンの種類は年齢とともに増えていく。知恵となるパターンを蓄積するには、どうしても年をとらないといけないのだ。
 そうなんです。年をとればとるほど人間は賢くなるというわけなんです。
 人生の早い段階では、右脳が中心的な役割を果たしているが、年齢を重ねるにつれて、右の右脳は少しずつ左脳に主導権を明けわたしていく。そして、左脳はアトラクタの形で、効率的なパターン認識の「在庫」をひたすら増やしていく。
 過去の膨大な経験をもとに新しいことを咀嚼する左脳は、成熟と知恵の年代にとって重要な存在だ。左脳には役に立つ情報、当人にとって良いことがぎっしり詰まっている。右脳は、新しいことに対処するための脳である。
 左脳は、認知活動によって強化されるため、老人の影響を受けにくい。団塊世代のみなさん、ホントに良かったですね。お互い、安心して老後を生き抜きましょうね。

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