弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年12月28日

日本テレビとCIA

社会

著者:有馬哲夫、出版社:新潮社
 今日の日本人にとって、テレビは軍事や政治とはまったく関係のない、単なる大衆娯楽のメディア。とくに日本テレビは、プロ野球やプロレスなどのスポーツ番組として、バラエティや音楽など、娯楽番組に定評がある。
 しかし、その設立の狙いは、アメリカ的民主主義や生活様式を日本人が学ぶことにあった。優先順位として上位にくるのは、共産主義国からの軍事的脅威に対する心構えだ。
 アメリカの世界戦略のなかで、日本テレビにはポハイク、正力松太郎(読売新聞社主)にはポダムという暗号名がつけられていた。
 正力は、文化・教育のメディアとしてテレビを考えていたが、GHQと接触して、反共産プロパガンダのメディアとして位置づけを変えた。
 アメリカが直接に共産主義とたたかうのではなく、日本にそれをさせる。単に日本を助けるのではなく、それがアメリカの資本家の利益にもなるようにすることが求められた。
 公然、非公然の手段によって、日本のマスメディアは、アメリカの対日心理戦略に確実に組み込まれ、かなりコントロールされた。毎晩のゴールデン・アワーを占領したアメリカ製の娯楽番組ほど大きな威力を発揮した番組はない。
 日本テレビはNHKと歩調をそろえて、アメリカのNBC、CBS、ABCがアメリカで放送して実績をあげた娯楽番組を放映した。たとえば、「名犬リンチンチン」「パパは何でも知っている」など。
 いかにもプロパガンダくさい番組より、ごく自然な娯楽番組のほうが、日本人を親米的にするうえで効果がある。
 マッカーシズムの時代には、西部劇は共産主義に対して開拓時代のアメリカ的価値を改めて称揚する意味があった。
 これらの娯楽番組が共通して発揮した絶大な効果は、日本人を番組のなかの人物、とりわけ主人公に感情移入させたことだ。つまり、日本人であるにもかかわらず、アメリカ人の気持ちになって考え、彼らの視点からものごとを見るようになった。
 現在の例をあげると、アメリカ側からのニュースや素材が多く採用されているため、日本人の多くはイラク戦争をアメリカの視点から見ている。そして、9.11でワールド・トレードセンターが崩れ落ちている映像を見ると、アメリカ人でもないのに、これはテロリストが起こした悲劇だと思ってしまう。対日心理戦略計画に、日本のメディアにできるだけ多くのニュースや素材を提供せよとあるのは、まさにこのためなのだ。
 なーるほど、そういうことなんですよね。日本のテレビは、昔も今もアメリカ的価値観に完全に占領されています。それで、アメリカのイラク侵略戦争への日本人の反対デモの盛り上がりが今ひとつ欠けていたんですね・・・。恐ろしいことです。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー