弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年10月16日

雷鳥が語りかけるもの

著者:中村浩志、出版社:山と渓谷社
 ライチョウは有名ですが、残念なことに、私はまだ現物を見たことがありません。
 この本を読んで、人を恐れない日本のライチョウは、実は世界で珍しい存在だというのを知りました。アメリカでは、ライチョウは人の姿を見たらすぐに飛んで逃げていくそうです。人間に射たれて食べられるからです。そう言えば、我が家にすむスズメもそうです。家の屋根瓦の下に巣をつくっていますし、しょっちゅう出入りしているくせに、巣を出入りするときだけは物音ひとつ立てません。実に静かにしています。でも、いったん外に出たら例のピーチクパーチクとかまびすしいこと、このうえありません。
 高山にすむライチョウの写真がたくさん紹介されています。日本のライチョウは静かに近づくと1メートルの距離でカメラを構えて写真がとれるそうです。わが家の常連のキジバトは2メートルが限界です。毎朝エサをやっていても、そうなのです。
 ライチョウは飛べないわけではありません。ちゃんと飛べます。日本のライチョウは人間にいじめられてこなかったので、人の姿を見ても逃げないのです。ライチョウは高山にすむ神の鳥として、古来からあがめられてきたのです。
 ライチョウが高山にしかすまないのは、ライチョウが氷河期の遺留動物だから。高山は氷河期の気候に似ているので、雷鳥はそこで生き延びることができた。
 雷鳥は北海道や東北地方にはすんでいない。標高が高くても、高山帯の面積が小さいので生きのびることができなかった。本州には、強い風と冬に多い雪があり、一年中、葉が緑のハイマツがある。そこは雷鳥の営巣場所として、また隠れ場所として雷鳥にとって重要な役割を果たしている。また、ヒツジが日本にいないことが幸いした。ヒツジは白い悪魔だとも言われている。山の草々を食べ尽くしてしまうから。それでは雷鳥は生き残ることができない。
 雷鳥のオスはナワバリをめぐって激烈なたたかいをくり広げる。メスを確保すると、オスはメスを守ってつがいをつくる。ヒナがかえるとメスが子育てをし、オスは単独行動になる。ヒナは天敵のオコジョに補食されたり、危険が高い。だいたい3分の1以下に減ってしまう。
 冬のあいだ、ライチョウは、とにかくじっとしている。動かず、じっとしていると目立たない。それが最良の護身術なのだ。
 中央アルプスにもかつてライチョウがいた。しかし、駒ヶ岳にロープーウェーをかけ、年間に数十万人もの人間が入るようになって、数年のうちにライチョウはいなくなった。
 ライチョウのオスのナワバリは平均して直径300メートルほどの大きさだ。ライチョウはニワトリに近い種類なので、砂浴びが大好き。
 一夫一婦のライチョウだが、まれに一夫二妻のライチョウもいる。
 日本に生息するライチョウは、3000羽ほど。ライチョウの夫婦は、翌年も生き残るのは全体の3分の1ほどにすぎない。ただ、オス・メスともに生きていたら、翌年も同じペアを組む可能性は高い。
 ライチョウが減っているのは、日本に高山気候の地域が少なくなったことにもよると指摘しています。つまり、地球温暖化がここでも原因となっているのです。ライチョウ保存の試みも始まっていますが、なかなか難しいようです。
 実物のライチョウをぜひ山で近くに見たいと思いました。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー