弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年10月 6日

また会う日まで

著者:早瀬圭一、出版社:新潮社
 私も、いつのまにか老後のことを少しは考えなくてはいけないと思うようになってきました。いよいよ団塊世代も50代から60代へ突入しようとしているのです。
 この本はラビドールという名の高級老人ホームの物語です。ラビドールというと、なんだかウサギ(ラビット)の小屋という響きですが、そうではありません。私の好きなフランス語で、「黄金の人生」というのです。
 入居一時金は6000万円以上です。そのうえ、管理費が月7万4000円(夫婦2人だと10万1000円)。食事は月6万円(2人で12万円)。要するに、一時金として6000万円もの大金を支払ったうえで、夫婦なら月24万円ほど支払っていかなければなりません。まさしく高級の有料老人ホームです。
 いったい、どんな人がこんな老人ホームに入っているかというと、大企業の管理職の退職者や公認会計士、大学教授といった人たちです。それでも、ここは良心的な老人ホームのようです。アルツハイマー症にかかった妻は24時間介護が必要になりました。1ヶ月56万円かかるうち、介護保険から出るのは、24万5400円。残りは老人ホームが全額負担してくれるというのです。預かり金から支払うのです。この老人ホームは終身介護の保証をうたい文句としているからです。だから、夫が負担するのは、一ヶ月のおやつ代3000円、リネンの洗濯代4000円、おむつ代1万5000円くらいのもの。
 2001年10月時点で、全国にある有料老人ホームは400施設、入居者は4万人ほど。ええーっ、こんなに少ないのかと驚いてしまいます。
 有料老人ホームにあっては、経営の安定と永続性にこそ事業目的が求められるべきである。しかし、現実には、このラビドールの母体だった千代田生命は経営が破綻してしまいました。そのとき、入居者がどうしたか。
 動揺して退出者が続出したら存続は危うい。しかし、みながじっと入居したままだと絶対大丈夫と叫ぶ人がいて、存続することができた。
 千代田生命のあとを日立グループの日立ビルシステムが引き受けた。入居者は、ものすごい不安を感じたと思います。でも、なんとか乗りこえたようです。
 私も福祉をビジネスにしてはいけない、なんてことは思いません。しかし、人間なら、誰しも等しく安全・快適な老後を過ごせるように保障するのが政治の役割ではありませんか。大金持ちだけが老後を快適に過ごせる社会は間違っています。オリックスの宮内義彦会長は、自分だって既に老人になっているにもかかわらず、老人切り捨ての先頭に立ち、金もうけだけにしか目がありません。そして52歳の首相は自分をまだ若いと錯覚しています。日本はますます年寄りに冷たい政治を目ざしています。あー、いやだ、いやだ。本当に嫌になってしまいます。でも、あきらめたわけではありません。

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