弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年7月14日

人間らしく、誇りをもって働きたい

著者:三上礼次、出版社:自治体研究所
 私も韓国には何回か行ったことがあります。といっても、いつも弁護士会同士の交流で行ったもので、実は釜山だけなのですが・・・。
 その釜山にある労働組合の委員長が2003年10月に工場内のクレーンで首吊り自殺しました。労組委員長が自殺するなんて珍しくないんだそうです。この本によると、韓国では労組委員長の自殺が相次いでいるというのです。ちっとも知りませんでした。
 韓国の社会には、これまで長いあいだ、労働争議で会社側が蒙った被害額を、労働者個人に賠償させるために告訴するという悪習がある。会社側は損害賠償請求と仮差押を労働組合弾圧の手段として乱用しており、損害賠償請求額は560億ウォン、仮差押額は790億ウォンにのぼる。
 訴訟に負けた労働者は、労組の資産はもとより、労働者の賃金や家屋敷まで取り上げられる。自殺した労組委員長は、財産を差押えられ、労組指導者として労働者の利益を守れない状況に追い込まれていた。ほかにも労組委員長が焼身自殺を図った例が紹介されています。日本では想像もできない事態です。
 少し前、国鉄が国鉄労組に対して巨額の損害賠償請求の裁判を起こしたことはありましたが、労組委員長の個人責任が問われたことはなかったように思います。
 韓国でも、日本と同じように、大量の非正規労働者がいて、大きな社会問題となっています。韓国と日本は、司法界も似ていますが、こんなところも同じなんですね・・・。
 非正規労働者は、政府の公式統計で労働者全体の32%、460万人いる。労働界の方では780万人いるとみている。ここ2年のあいだに100万人が増えた。銀行業では10人に3人以上が非正規。造船や流通業界では、非正規職の方が正規職の人数を上まわっている。
 近くて遠い国、韓国の実情を少し知ることができました。本文は50頁たらずの薄さです。さっと読めますので、一読をおすすめします。

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