弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年6月22日

愛犬王・平岩米吉伝

著者:片野ゆか、出版社:小学館
 犬の集団のリーダーが決まるときの優先順位が紹介されています。第一に性別。オスであること。第二に年齢。年長優先です。第三に気性の強さ。第四に才能。敏捷な立ちまわりで優位を獲得する。最後の第五に体力。要するに、年長の雄で、気性が強く知恵のあるものがリーダーとなります。犬の世界でも、腕力だけでは上位を占めることはできないのです。なーるほど、ですね。
 平岩米吉は昭和4年(1929年)から自由ヶ丘に住むようになりました。当時の自由ヶ丘は一面の田園地帯です。お寺のほか、水田と竹藪のなかに七面鳥やブタを飼う農家が点在していました。そのなかで、1000坪の敷地に多くの犬を飼いました。フェンスで囲うのですが、金網の下は30センチほど地面を掘って埋めていました。犬は穴掘り名人なのです。
 犬は人間の言葉を理解するのでしょうか?
 犬は単語の意味をまったく理解していないわけではない。固有名詞としては、自分や家族の名前、よく訪ねてくる人の名などは覚える。普通名詞では、食物や動作に関係あるものが大部分。勉強とか進歩など食物や動作と無関係で形のないことは理解しない。動詞も、座や伏せ、待てなど犬の行動と関連のあるものほど理解度が高い。しかし、行けと行くなが正反対の意味だと認識させるのは難しい。犬が言葉を聞くときに集中するのは、言葉の初めの方で、語尾については、ほとんど気にとめていない。
 米吉は、犬が電話を通した飼い主の言葉にどのように反応するか、という実験もしています。1回目は恐がり、2回目は分かり、3回目になって命令をきいたということです。米吉は、犬にも夫婦愛や伴侶を守ろうとする強い使命感があることを発見しています。すごいですね。妻は夫の帰りを待つ。食事もしないで、ひたすら待ち続けるのだそうです。
 米吉は日本最後の狼も飼っています。
 狼は犬と違う。敏捷性が高く、顎の力が強く、興味をもったものや自分の所有物と思ったものは、簡単にかみ砕いてしまう。狼ならではの声は遠吠えのみ。
 米吉が一匹の犬を可愛がると、犬はそれにこたえる。しかし、それが行き過ぎると・・・。深い愛情は、いいかえれば相手をいかに独占するかということ。その関係に立ち入る者は自分たちの幸せを脅かす敵だ。自分以外のすべての存在が敵となる。喜びと落胆と嫉妬と警戒のなかで、常に神経をピリピリさせながらイリス(愛犬)は、米吉の愛情を貪欲に求め続けた。
 イリスの母犬が死んだとき、イリスは絶えず立って行っては動かぬ母の臭いを嗅ぎまわり、その口や鼻や目や鼻をいつまでも舐め続けていた。母犬が棺に納められ、地面の下に姿を消していくとき、イリスは目をいっぱいに見開いてガタガタと震えていた。すごい、ですね・・・。犬と人間がどれほど違うのか、考えこんでしまいます。
 犬の言葉の理解度は、個体差が大きい。その違いは、飼い主の接し方によって生じる。いい加減に放置されている犬と、主人や家族から深く愛された犬では、あきらかに後者の方がたくさんの言葉や複雑な表現を理解できるようになる。
 フィラリアにやられて死んだうちの飼い犬(柴犬)は頭が悪いと思っていましたが、飼い主のレベルをちゃんと反映していたのでしょうね。バカな主人にはバカな犬が似合う、というわけです。でも、まあそれなりに可愛いがっていましたし、今もお盆にはきちんとお墓まいりはしています。
 犬は笑うのか? 実は、笑うのだそうです。うれしいときだけでなく、恐縮したとき、困惑・恐怖を感じたときも笑うのです。
 犬とともに生活した昭和の愛犬王の愉快なお話です。

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