弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年5月17日

ゾウを消せ

著者:ジム・ステインメイヤー、出版社:河出書房新社
 バーの片隅でやるにはもってこいのマジックがある。そうなんです。東京には、手品を売り物にするクラブがあります。酒を飲みながら、テーブルの向こうであざやかな手品を見せてくれます。カードをつかったり、お客が財布から取り出した紙幣をどんどん増やしてくれたり、その鮮やかな手品に目を見張っているうちに時間がたってしまいます。
 これに対して、ステージで大がかりの演技を行うマジシャンをイリュージョニストというそうです。この春、ハウステンボスで世界的に名高いイリュージョンというふれこみの大がかりのマジックショーを見てきました。この本のタイトルであるゾウが消えるではありませんが、突然、舞台上に大きなオープンカーが登場したり、さっきまで舞台にいたマジシャンが観客席に出現するなど、手に汗を握りながら、くいいるように舞台を見つめて過ごしました。
 マジシャンが守っている金庫は空っぽだ。その技は、高校で習う以上の科学や輪ゴムや鏡、長い糸よりも複雑な道具を必要とするものなど、ほとんどない。やり方を知ってしまえば、観客は、なーんだそれだけかと、その技をバッサリ切り捨ててしまう程度のもの。
 しかし、マジシャンたちは、わざと演技の綿密な相互作用を理解し、微妙な技を展開する力を備えている。小道具を突きとめたり、トリックを暴いたりすることを求める凡人は、つまらない部分に注目し、あっけなくがっかりする。それはミステリー小説の最後のページを、最初に読んでしまうようなものだ。
 マジック・ショーで人をだますには、鏡や糸や輪ゴムといった小道具そのものは、あまり重要ではない。観客の手を引き、自分からだまされるようにし向けなければならない。マジシャンとは、マジシャンの役を演じている役者にすぎない。
 まあ、しかし、そうは言っても、凡人はタネも仕掛けも知りたいものです。この本は、それを少しだけ満足させてくれます。
 ゴーストを踊らせるマジックがある。これには、透明なガラスをつかう。舞台の手前の底に人を置いて、舞台には大型のガラス板を設置する。ガラス板の角度が難しい。これは特許として出願されている。そうなんです。有名なマジックは、それを考案した人によって特許として出願されて権利が守られているのです。うーむ、知らなかった・・・。
 箱のなかにゾウや人間を隠すのには、鏡を利用する。その仕掛けが図解されています。あとは、観客の目をいかにしてごまかすか、です。
 人体の空中浮揚術は天井からピアノ線で吊り上げるということのようで、それも図解されています。でも、観客席にいると、ピアノ線で吊り上げているようにはとても見えないのですが・・・。ピアノ線に科学的な処理を施して黒っぽくすれば、観客から見えなくなる。ただ、浮いている人間の真上の空間がぼんやり霞がかかったようになってしまう。
 ゾウを消すには、鏡をセットした巨大なテーブルをつかう。ゾウをテーブルの上に立たせて天幕でおおう。ステージ上でくり広げられる演技の合間に鏡をそっとステージに上げ、必要なあいだだけテーブルの下にとどめ、このあいだにゾウを大型エレベーターで降ろす。
 美女の胴体切りというのがあります。凡人の私には、何回見ても、そのトリックが見抜けません。もちろん、これにも特許があります。残念なことに、この本でも、そのトリックは解説されていません。でも、まあ、楽しい本です。
 15日のヘビの話は訂正します。よくよく見たらヘビの頭がありませんでした。イタチに頭を食べられたのでしょう。
 スモークツリー(カスミの木とも言います)が、紅茶色の花を咲かせました。スモークとあるように、モヤモヤふんわりした面白い花です。山法師の白い花も咲いています。

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