弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年2月10日

十面埋伏

著者:張 平、出版社:新風舎
 すさまじい逆巻く怒濤のような本です。本を手にとって読みはじめると、怒りにみちた静電気で腕がビリビリしびれ、前身の膚が毛穴から汗のにじむように鳥毛だってきます。
 次から次に息つくひまもなく囚人の隠された悪業の数々が暴き出されていく。ところが、刑務所当局はいっこうに動こうとしません。なぜか、刑務所は収容されている人間だけでなく、所長以下の職員までも買収され、悪の巣窟と化しています。では、どこにも光明はないのか・・・。いえ、権力機構の中にも、まだ良心を辛うじて保っている人間はいるのです。その人たちが少しずつ、恐る恐る連携を広げ、悪のネットワークに抗して立ち上がろうとします。
 しかし、悪のネットワークも黙視しているわけではありません。彼らは彼らの力をフルに活用して、それを封じようとします。そうなると、先手必勝。どっちが先に手をうつか、時間とのたたかいにもなります。
 刑務所、警察(公安)組織、政界、実業界さまざまな人脈がうごめいています。農民の土地をタダ同然で取りあげ、金持ち階級が抑圧していきます。その過程で、金と権力が惜しげもなくつぎ込まれます。お金も権力もない庶民は口に指をくわえて見ているしかありません。
 上下2巻。それぞれ370頁ほどもあるこの本を電車に乗って4時間で読み切りました。読みはじめると、あまりのすさまじさに息を呑み、いつ終点の駅に着いたのかと思うほど一心に読みふけってしまいました。
 この著者は、前に「凶犯」という本(新風舎文庫)を出しています。前の本にも圧倒されましたが、この本はさらにそれを上まわるド迫力があります。
 中国三大文学賞を受賞した。映画化が決定した。オビに書かれています。それも当然だと、ついうなずいてしまいました。みなさんに、一読をおすすめします。

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