弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年1月31日

ダブル・ヴィクトリー

著者:ロナルド・タカキ、出版社:星雲社
 第二次大戦中、アメリカ軍のなかでは黒人兵に対して、ひどい人種差別が横行していた。それは基地内でもあったが、より大きな不安は基地の外で待ちかまえている暴力だった。黒人兵士は上官から「基地の外に出るな。出ると帰ってこれなくなるぞ。リンチされてな」と警告されていた。実際、黒人2等兵が後ろ手にしばられて木に吊された死体となって発見されることがあった。
 黒人女性も兵士になっていった。しかし、軍服を着ても、市民として平等な権利を得たことにはならなかった。バスの待合室では相変わらず黒人専用のものしか認められなかった。だから、黒人たちはデトロイトとニューヨーク(ハーレム)でついに暴動をおこした。それをヨーロッパの戦場で聞いた兵士たちは、白人兵士も黒人兵士も、そして日系兵士も、連名で「なぜ、自由と平等と友愛の国であるはずのアメリカでこんなことが起きているのか。いったい我々は何のために戦っているのか」という書面をアメリカの新聞に送った。
 アメリカは大戦が始まると、日系人を強制収容所に隔離した。ジャップはジャップであり、一度ジャップに生まれれば、ずっとジャップなのだ、と。しかし、日系兵士としてアメリカ軍に従軍した若者たちが3万3000人もいた。
 アメリカ人が日本軍をどう見ていたか。このことも紹介されています。
 ヨーロッパでは、敵は食うか食われるかの存在であったことは確かだが、それでも人間だった。しかし、日本兵はゴキブリやネズミのような忌避すべき存在だ。
 真珠湾を忘れるな。奴らを殺し続けろ。これが海兵隊のモットー。ジャップを殺せ、ジャップを殺せ、ジャップをもっと殺せ。こう言ってハルゼー提督は部下を叱咤した。
 俺たちは黄色いネズミを殺すんだ。殺さないと平和はない。だから憎め、殺せ、そして生きるんだ。これは海兵隊の大佐が訓示した言葉。
 猿の肉をもって帰ってこい。これは出撃する部下へのある提督のはなむけの言葉だ。そして、本当にアメリカ兵たちは戦死した日本兵の頭皮、頭蓋骨、骨、耳を戦利品として収集し、本国へ持ち帰った。しかし、ドイツ兵やイタリア兵の遺体から歯や耳や頭蓋骨を収集することなど、まず考えられない。そんなことが知れたら大騒ぎになるのは間違いない。その意味で太平洋の戦いは人種戦争の側面を持っていた。
 アメリカ史上、おそらく日本兵ほど憎まれた敵はいなかった。激しかったインディアンとの戦いが終わって以後忘れ去られていた感情が、日本兵の残忍さで呼び覚まされたのだ。
 トルーマン大統領は、日本への原爆投下を決断したとき、けだものを相手にするときには、それ相応に扱わねばならないと考えた。しかし、さらに10万人を殺すのかと思うと、たまらない気持ちになって、トルーマン大統領は3発目の原爆の使用を禁止した。
 うーむ・・・。これを読むと、本当に複雑な気持ちになります。いずれにしても、アメリカには最悪の人種差別をする傾向と、同時に民主主義を守り育てていく力の両面があるということなのでしょう。だから、昔も今も、アメリカ万歳と手放しで賞賛し、追随していくなんて、私には絶対にできません。
 ところで、この本を読んで、映画にもなったあの「ミシシッピーバーニング」の被害にあった白人学生たちがユダヤ人であったことも知りました。1964年夏に有権者登録運動のために南部に赴いた学生たちの半分以上はユダヤ人だった。ミシシッピー州でジェームズチャニイと一緒に殺された公民権運動活動家のアルドルー・グッドマンとマイケル・シュワーナーもユダヤ人だった。それから、マルチン・ルーサー・キングの側近や、NAACPの有力な活動家はみんなユダヤ人だった。
 なるほど、そうだったのかー・・・。アメリカにおける人種差別の根深さを改めて思い知らされる本でした。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー