弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年12月28日

文字の歴史

著者:スティーブン・ロジャー・フィッシャー、出版社:研究社
 インカ帝国のキープ、エジプトのヒエログリフ、アメリカのマヤ文字などは有名ですが、それ以外にも古今東西、いろんな文字があります。その全体を概観できます。漢字を基調とする日本語とアルファベットを見慣れたものからすると、アラビア文字などは難しくてとても判読困難だと思うのですが、子どもでも読み書きしているわけですから、要するに慣れの問題なのでしょうね。
 日本語は世界でも難しい言葉のひとつだと、この本でも書かれています。
 日本語が実際、世界でもっとも習得困難な表記法であることに異論はないはずで、歴史上もっとも複雑な表記法であるという主張も、まったく正当であろう。しかし、日本の文字表記は完全に習得可能であるばかりか、明らかに成功であった。何世紀にもわたってこの表記システムを使ってきた日本人は、高い読み書き能力をもち、繁栄を築いてきた。きわめて豊かな文学の伝統ももっている。世界一の識字率を誇り、出版物の一人あたりの購入数は世界一である。一部の科学者は、日本人は複雑な文字をつかうために脳を余計に働かせることになり、そのために文字と直接関係のない分野においても秀でる人もいるのではないかとさえ言われている。
 日本人の頭は表意式の漢字かなまじりの文章を読んで話すように脳が機能するようになっているため、表音式の外国語の習得が難しいという学説があります。脳の働く分野が異なるからです。私はその信奉者です。何年たってもフランス語をうまく話せないからです。
 この本には言語と文字の将来予測も書かれています。現在、世界全体でつかわれている言語は約4000。100年後には、おそらく1000言語だけになるだろう。
 パソコンがつかわれるようになって、多くの人が話しことばより書きことばをキーボードにうちこんで過ごすようになった。未来には書くという行為はなくなるかもしれないと考えている人がいる。コンピューターの音声認識システムが書くのに取って代わり、読むにしてもコンピューターの音声応答システムが完成すれば消えるかもしれないというのだ。
 しかし、今後、何世紀たっても、ものを読んだり書いたりすることから得られる利益と喜びは、コンピューターの音声認識システムの比ではないだろう。というのも、書くという行為は、読み書きできる文化のほんどに内在するからである。どこの現代社会でも、人間の相互作用のほとんどは、あらゆる面で書きことばに依存している。25世紀の宇宙船の司令官は、宇宙船のメイン・コンピューターとの交信を音声指令や音声応答に依存するようになるのかもしれない。仮にそうなったとしても、自分の個室では、今日われわれが読んでいるのと代わらない、ホイットマンや芭蕉、あるいはセルバンテスの本を読んで楽しんでいるのではないだろうか。
 将来、文字がどんな形になろうとも、それは依然として、人類が経験したり、能力を得たり、記憶したりするのに中心的な役割を果たし続けるだろう。一人のエジプト人書記官は4000年前にインクで次のように書いた。
 1人の人間が死に、その肉体は土にかえった。彼の親族たちもみな土になった。彼を思い出させるのは文字である。
 私もまったく同感です。だから、これからも私は手で書き続けます。

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