弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年12月16日

透明な卵

著者:ジャック・テスタール、出版社:法政大学出版局
 フランスにおける補助生殖技術の第一人者による本です。著者は1982年に体外受精による赤ちゃんの誕生を成功させました。
 男性の精液提供について、アラブ人は気安い提供者だが、黒人は抵抗を感じる人々だ、としています。民族(?)性が現れるそうです。日本人はどうなのでしょうか・・・。
 受精卵は冷凍保存することができる。すでに数十人が誕生に成功した。
 男性が受精後数日たった胚を自分の腹部に受け入れて、妊娠することも可能だ。単なる幻想ではない。ヒトの胚は子宮の外でも腹腔の中なら、しまいまで成長することができる。出産は帝王切開すればいい。妊娠中のホルモン調整については、適切なホルモン注射を用いれば、卵巣がなくても確実にできる。
 オーストラリアでは、卵巣機能をもたない女性が、体外受精によって、別の女性の卵子から得られた子どもを、その子宮に宿すことができた。ただし、男性の妊娠は、女性の子宮外妊娠と同じく生命にかかわる危険をともなう。
 ご冗談でしょう。そう言いたいところですが、真面目な話です。もちろん、単なる可能性であって、現実になされたということではありません。でも、人間の誕生が、科学技術の発達で、ここまで操作することを可能にしているというわけです。本当に怖い話です。いかにもフランス人らしく難解な哲学的用語の多い本書を、私が紹介しようと思ったのは、このくだりを読んだからです。
 すでに200人以上の子どもが私の試験管の中で宿ってから生まれた。そのうち10人は冷凍受精卵から育った。5人から10人の新しい赤ちゃんが、これから毎月うまれてくる予定だ。1982年から4年間で、600人以上の子どもが32のフランスの医療チームの試験管の中で宿った。すごいですね、現実はそうなってるんですね・・・。
 この本の最後には、試験管内で受精させる方法が簡単に図解されていて、理解を助けます。ところで、この本で問題としているのは、人間が人間自らを身体的に変える可能性を手にしたということです。
 人間がもっている無数の欠陥、たとえば、顔が美しくない、音痴だ、頭が悪い、気が短い、足がのろいといったものを遺伝させない技術が、たいした費用もかからず実現できるとして、これを無視できるだろうか、ということです。
 そうですよね、それはたしかに難しいことでしょう。でも、本当にそうなったら・・・。怖い世の中になってしまいそうです。ええ、はっきり言って、そんなこと、考えたくはありません。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー