弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年12月 9日

絵巻物

著者:秋山光和、出版社:小学館
 原色日本の美術の8巻目の大型本です。図書館から借りて読みました。
 絵巻物について、入門的かつ総合的に解説してくれています。大型のカラー図版によって、絵巻物の素晴らしさがよく分かります。絵巻物は、その描かれた時代の日本を視覚的に再現してくれる歴史遺産であるだけでなく、日本が世界に誇りうる一級の芸術品だと思いました。大判の本なので持ち運びするには不便ですが、絵巻物を原寸で読めるのはうれしい限りです。
 絵巻物は世俗的絵巻と宗教的絵巻に大別される。世俗的絵巻は、物語(源氏物語絵巻や紫式部絵巻など)、説話(信貴山縁起絵巻、伴大納言絵巻など)、戦記(平治物語絵巻、蒙古襲来絵巻など)、和歌(三十六歌仙絵など)、記録そして雑(鳥獣人物戯画)がある。宗教的絵巻には、仏典・装飾経(餓鬼草紙など)、寺社縁起(北野天神縁起絵巻など)、高僧伝(一遍聖絵など)がある。
 光源氏が五十日の祝いに薫をだいている場面を描いている源氏物語絵巻を眺めると、当時の貴族の邸宅の様子がよく分かります。
 人物の顔は「引目鉤鼻」(ひきめかぎばな)に決まっている。斜め正面むき、やや後方から見た横顔、極端に頭を小さくしたうしろ姿の3つに限定されている。そうは言っても、絵を描いた作者の表現力が不足していたわけではない。特定の効果を意図してつくり出されたスタイルである。喜びも悲しみも、一切の感情が表情として示されていないにもかかわらず、画面を全体として眺めると、不思議なほど人物の気持ちやその置かれた情況が、ありありと見る者に伝わってくる。
 「引目」についても、一本のように見えながら、ある部分を強調し、あるいは軽い点を加えて瞳のあり方を暗示するなど、それぞれの顔にひそやかな命をかよわせている。
 彩色法にも独自のものがある。下描きの墨線を厚い彩色顔料で全部塗り隠したうえで、改めて色や墨の線で描き起こしをして画面を仕上げていく技法がとられている。「つくり絵」の技法である。
 絵巻物は上下の最大幅が50センチもある。横の長さは10メートルから15メートルに及ぶ。みる者は絵巻物を手にとって、あるときには停めてじっくり眺め、あるときには早く巻きすすめることができる。緩急のリズムをみずから生み出し、調節することで、画面効果を作り出すことに参加できるわけである。
 絵巻物は中国の画巻に学んでいる。しかし、日本式の絵巻物として、10世紀に独自に発達をとげていった。13世紀の後半に盛りあがりをみせ、14世紀になると最後の輝きを放って、急激に減退していった。
 以上のような解説によって絵巻物を知ることができるわけですが、ともかく、カラー図版を眺めるだけで楽しい絵巻物の解説本です。そこには中世に生きた人々の顔が写実的に描かれています。なーんだ、やっぱり中世の人って現代日本人とあまり変わらないんだなー・・・と、驚かされます。

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