弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年10月28日

町工場こそ日本の宝

著者:橋本久義、出版社:PHP研究所
 東京の下町の小さな町工場にいながら、いわば世界を動かしている岡野雅行氏に大学教授がインタビューしてできあがった本です。なるほどなるほど、と思わせ、町工場を見直すと同時に、チョッピリ日本の将来に自信も持たせてくれます。
 岡野氏はあくなき探求心にみちみちています。オレは、値段が高いのか安いのかしか言わないような企業には愛想が尽きた、と小気味のよいタンカを切っています。こんな言葉を聞くと、つい拍手をおくりたくなります。
 町工場が強いのは、大企業はみな自分の身内で足を引っぱりあっているからだという言葉も出てきます。うーん、なるほど、そうなんだー・・・。
 やはり社長は現場を知っていなければダメだ。現場を知っていると、お金のことを言わない。人間、お金のことを言うようになると、もうダメ。そうなんですねー・・・。
 機械は調子を見ながら、具合の悪いところをすぐに直していかないと、元に戻らなくなる。ちょっとしたガタや引っかかりの原因をその都度とり除いていく。ネジを締め直す。油を塗る。ときに、ちょっとヤスリをかける。そうやっていつも注意して見てないと、どうしようもない壊れ方をしてしまう。中国の企業が新しい機械を入れても、新しいうちはいいけど、いったん壊れたら、もう使いものにならない。だから、3年たってもカタログどおりの性能が出る日本製品が売れる番になるんだ。なるほどー・・・。
 ものづくりの現場では、ハイテク製品は雑貨から生まれている。ローテクの雑貨をやっている人は、そのノウハウをすぐハイテク製品に転用できる。
 岡野氏は痛くない注射針をつくりあげ、大量に生産・販売していることで有名です。この注射針は、全長20ミリあり、80ミクロンの穴が通っているのに、溶接せず、穴を開けているのでもないのです。金属の板が溶接なしで丸まってぴったりあわさり、ハリの中を通る液は漏れません。すごーい・・・。感心してしまいます。
 今では、岡野氏の町工場は修学旅行のコースにもなっているというのです。本当にいいことだと思います。子どもたちにモノづくりの楽しさを見せて、実感させるって、素晴らしいことじゃありませんか。
 日本って、もうダメな国なんじゃないか、日本をあきらめよう。そう思ったときに、ちょっと待って、この本を手にとってみて下さい。案外、日本も捨てたもんじゃないぞ。そんな気にさせてくれる本です。

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