弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年8月12日

壊滅

著者:エミール・ゾラ、出版社:論創社
 1870年に始まった普仏戦争で、フランス軍がいかにたたかい、プロシア軍に敗れていったか、刻明に再現したゾラの小説です。ナポレオン3世がみじめにもプロシア軍の捕虜になっていく様子も描かれています。そのことがパリ市内での反乱(パリ・コミューン)を呼び起こします。後半には、パリ・コミューンが壊滅していく様子も記述されています。
 プロシア軍なんかに負けるはずがない。こんな確信で始めた戦争ですが、実はフランス軍の指揮命令系統は無謀なナポレオン3世のもとで、滅茶苦茶でした。てんでんバラバラにたたかい、退却していくのですから、統制のとれたプロシア軍にかなうはずがありません。まともに食事をする間もなく、後退命令が出され、指揮命令が貫徹していないため、無為に何時間も立ち往生する。そして、次々に敵の砲弾によって殺され、負傷していく兵士たちの様子が実に生々しく刻明に描かれています。
 ナポレオンを崇拝していたボナパルティストの兵士も、ナポレオン3世が空想的な精神と、できの悪い頭脳をもつ、無能な人間だということを認めざるをえない現実がありました。
 400字詰めの1400枚の長編小説で、660頁の大部な本です。この本を読んで、普仏戦争の実相に初めて触れた気がしました。ナポレオン3世を美化するなんて、とんでもないことだと改めて実感したことです。

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